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実現不可能な難題…かぐや姫が石作皇子に出した課題とは?

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あっという間に美しい女性となったかぐや姫のもとに5人の貴公子が現れ、それぞれがかぐや姫を自分のものにしようとアプローチします。しかしかぐや姫は、5人の貴公子にそれぞれ異なったこの世のものとは思われない宝物を、手に入れて来ることを承諾の条件とするのです。

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こういった結婚の条件として女性から難題を出すお話は「難題求婚譚」や「謎かけ姫物語」と呼ばれていて、例えばグリム童話の「あめふらし」など日本だけではなく世界中の物語にあります。たいていは求婚者の男性が難題を解いてめでたしめでたしとなるのですが、しかし『竹取物語』ではそうはいきません。
それはなぜなのでしょうか?

 

「変化のもの」が投げかけた実現できない難題

5人の貴公子の熱心な求婚を相手にしないかぐや姫に、竹取の翁はこう言います。「仏のように大切なわが子よ。”変化(へんげ)の人”とは言ってもここまで育てたのだから、私の言うことを聞いてもらえないだろうか」と。すると、かぐや姫はこう返すのです。「どんなことを言われても、聞かないということがあるでしょうか。私は”変化のもの”であったとは知らなかったとはいえ、あなたを本当の親と思ってきたのですから」。

翁は「変化の人」と言いますが、かぐや姫は自分のことを「変化のもの」と言います。ここで言う「もの」とは、つまりこの世の人間ではない神霊などの何かという意味なのです。古代には「物」とはそもそもは鬼や霊など不思議な力をもった存在のことで、「人」とは明確に違いがありました。つまり、この求婚を受けた時点で、かぐや姫は自分がそうであると自覚していたわけです。

しかしそれを自覚したうえで、5人の貴公子のうちの誰かを選んでほしいという翁の願いに応えるかたちで、難題を投げかけることになります。そこにはじつは、この世の人間ではないからこその問いかけがあったのであり、それは決して普通の人間では解けない実現できないものなのでした。

 

石作皇子への難題

まずは「石作皇子」への難題です。石作皇子のモデルは多治比真人嶋(たじひのまひとしま)とされていて、飛鳥時代の宣化天皇の四代目の孫で当時の身分制度である八色の姓(かばね)の最高位の真人の姓を与えられ、のちに右大臣になりました。

石作皇子にかぐや姫は「仏の御石の鉢」というものを持って来てほしい、という要求を出します。「仏の御石の鉢」とは、釈迦が持国天、増長天、広目天、多聞天の四天王が献上した4つの鉢を重ねて押しこんでひとつにした、という伝説をもつ紺青に輝く鉢のことです。そのようなこの世にあるかどうか分からない宝物を、いくら皇族の権力者であるとは言え持って来ることができるわけがありません。

しかし物語では石作皇子を「心に支度ある人」と言います。皇子は探しに出かけると言って3年ほど経ってから、大和国の十市郡というところにある山寺で、釈迦の弟子のひとりである賓頭盧(びんずる)の像の前にあった真っ黒にすすけた鉢を取って来て、錦の袋に入れてかぐや姫に届けます。

中には手紙が入っていて、「遥か遠い天竺まで行ってこの鉢を手に入れ、その苦労に血の涙が流れました」とわざわざ言うのです。しかしかぐや姫は、本物の鉢には光が宿しているのを知っていて、まったく輝きもしないこの鉢が偽物であるのをすぐに見抜いてしまいます。

「心に支度ある人」とは、知恵や知謀のある人という意味で決して悪い意味ではないのですが、石作皇子の知恵や知謀はたとえ人間の女性には通用したとしても、かぐや姫には通じませんでした。そこには、ただ厚かましさと恥ずかしさだけが残ったのです。

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