> >

かぐや姫は誰?竹取物語最大の謎とかぐや姫の罪

9
 
「竹取物語」のクライマックスで、とうとう月の国に帰ることになったかぐや姫に、天人は2つの箱を持って来ます。ひとつの箱には「不死の薬」が、そしてもうひとつには「天の羽衣」が入っているのです。不死の薬を口に入れたかぐや姫は、天の羽衣を着ればもう心が普通の人間とは違ってしまうと言います。

竹取物語の原型と言われる「羽衣伝説」の重要なファクターである天の羽衣が、物語の最後になって初めて出て来るのです。

スポンサードリンク


 

かぐや姫と天の羽衣をなくした豊受大神

古代から伝わる羽衣伝説は日本各地にあるのですが、その物語は2種類に分かれます。ひとつは、天に帰れなくなった天女が地上で人間の男性と結ばれ子供までつくり、やがて羽衣を見つけて天に帰るお話。これが一般に知られるものです。

もうひとつは、羽衣を失った天女が老夫婦の子として引き取られ、その老夫婦は裕福となりますが、やがて老夫婦に追い出されてしまうというお話。あとの方の伝承は浦島伝説で有名な『丹後国風土記』に伝えられているもので、追い出された天女は地上に留まって「豊宇賀能売命(とようかのめのみこと)」として「奈具神社(京都府竹野郡)」で祀られたと伝えます。この豊宇賀能売命とはつまりトヨウケヒメ、その後に伊勢神宮の外宮の祭神となる「豊受大神」のことなのです。

竹取物語が、人間と結ばれるのではなく老夫婦に育てられたという物語の設定から、一般的な羽衣伝説ではなく丹後国風土記の伝説を下地にしていることがわかります。しかし、かぐや姫=天女は老夫婦に引き止められながら月に帰るのに対して、羽衣伝説では老夫婦から追い出されて地上に留まるという正反対の結末になっています。それでは、かぐや姫と豊受大神との関係はどうなのでしょうか?

 

食物と月の女神だった豊受大神?

豊受大神の「うけ」とは食物のことで、その名前の通り食物や穀物を司る女神です。同じく食物の神には「保食神(うけもちのかみ)」という神様がいますが、この神は日本書紀の記述では、天照大神から保食神に会うように言われた「月読命(つきよみのみこと)」によって斬られて死んでしまいます。月読命は天照大神の弟で、父の伊耶那伎命(いざなぎのみこと)から「夜の食国」を治めよと指示された神(古事記の記述)。

月読命は夜の神であり名前の通り月の神であると同時に、食物の神でもあるわけです。古代は月の満ち欠けで暦ができていたように、農業にとって月は切ってもきれない関係でした。ですから豊受大神も月に大きく関係する神であり、地上に留まった天女である豊受姫は月の姫ということになるのではないでしょうか。

浦島太郎伝説の記事でもご紹介したことがあるのですが、かつての丹後国の京都府宮津市に「籠(この)神社」という古い神社があります。この神社は「元伊勢」とも呼ばれ、はじめ豊受大神が祀られていて(奥宮の真名井神社)、天照大神が一時ここに鎮座したのち伊勢神宮に移り、その後に豊受大神も移ったことからそう呼ばれます。この籠神社の由緒によると、豊受大神は水神であり月神でもあるとされているそうで、伊勢神宮に遷座した日は9月15日の満月の日なのだそうです。

 

かぐや姫のまだ解けない最大の謎

かぐや姫には、もうひとつ大きな謎があります。それは月の国の王が言う「かぐや姫は、罪を犯されたのでしばらく翁のもとにいたが、その罪の期限が終わったので迎えにきた」という言葉。かぐや姫ははたして、どんな罪を犯したのでしょうか?

それについては、はっきりとした解答はありません。地上でことごとく男性を退けたのは、男女の罪を償うためだったからだという解釈がありますが、それが正しいのかどうかは分かりません。かぐや姫が素直に人間の求婚を受けようとはしなかったのは、男女の罪の償いというよりも、そもそも自分が人間ではない「変化のもの(神霊)」と自覚していたのですから。

かぐや姫のモデルがもし豊受大神であったとしたら、そこにはもっと奥深い神話的な謎が隠されているのではないでしょうか。

竹取の翁がその一族であると思われる、朝廷の祭祀を担当した忌部氏と関係する謎もまだまだありそうです。忌部氏は、奈良時代には中臣氏とともに伊勢神宮への奉幣使(朝廷からの使者)に任命されていますが、その後に中臣氏に押されて外され没落していきます。中臣氏の一族からその後に権勢を誇る藤原氏が出るのです。そんな忌部氏の伝承も、竹取物語に関わりがあるという説があります。

物語の最後で、かぐや姫からの置き土産となった「不死の薬」を、帝は自分が口にするのではなく富士山で焼かせました。つまり不死を拒否してしまったのですが、もし帝のモデルが文武天皇であったとしたら、23歳で早世したその姿に重ね合わせたのかも知れません。

このエントリーをはてなブックマークに追加


スポンサードリンク
スポンサードリンク

Comments are closed.