江戸にもあったポルターガイスト!西洋の事例との不思議な共通点
日本でも江戸時代には、様々な「ポルターガイスト現象」が起きていました。
そのひとつ、江戸時代の中期から後期の天明年間(1781年から1789年)から文化年間(1804年から1818年)にかけて、勘定奉行と江戸南町奉行を歴任した根岸鎮衛が書き継いだ、不思議な話や奇談を記録した「耳袋」にはこんな話が残されています。
ある武士の家で起きたポルターガイスト現象
根岸鎮衛が評定所の留役だった頃の部下に四谷に住む大竹栄蔵という者がいましたが、彼が子供の頃に体験した話です。その親の代に、江戸の池尻村(世田谷区池尻)出身のある若い女を下働きとして雇った直後、怪異現象が起こったと言います。
家人が寝静まった時刻、突然に天井に大きな石が落ちて来たような音がして、家中の者がびっくりして飛び起きると、さらに部屋にあった行灯が宙を舞ったのだそうです。その夜はそれで終わりましたが、翌日からは怪異現象がエスカレートし、茶碗や皿が空中を飛び交い、天井ではガタガタ、ドンドンと大きな音が鳴ります。
またある日、使用人が庭で精米をするために石臼で米つきをして、ある程度ついた頃に一服していると、その重たい石臼が庭から座敷に移動していたりします。
大竹栄蔵の父親が下男に命じて怪異現象の元凶と思える天井裏を調べさせますが、そこには何者かが侵入したような形跡もなく、下男が天井裏から下りて来ると気づかないうちにその顔は煤で真っ黒になっていました。
ポルターガイストの陰に若い娘あり!
大竹家ではこれは妖怪のしわざではないかと、神主や山伏に頼んで祈祷やお祓いをしてもらいますが、まったく効果がありませんでした。
するとこの怪異のウワサを聞きつけたのか、ある老人がやって来て「もしかしたら、池尻村の娘をこの家でお使いになっているのでは?」と言います。
この老人によると、その池尻村の若い娘が怪異現象の原因であり、その土地の娘が他所の土地の男と交わると産土神(うぶすな神)が氏子の娘を惜しんで、怪異現象を起こすのだと言います。
大竹栄蔵の父はその話に半信半疑でしたが、その後も怪異現象が続くので池尻村の娘を解雇して村に帰すと、たちまち現象は収まったのだということです。大竹栄蔵はまだ幼かったので確かなことはわからないが、どうやら父親がその池尻村の娘に手をつけていたようでした。
世界共通の現象は江戸時代にも起こっていた
これと似たような話が、大浄敬順という僧が文化9年(1812年)から書き始めたという随筆「遊歴雑記」にあります。
それによると、江戸小石川(文京区小石川)に住む高須鍋五郎という武士が池袋出身の若い下女に手をつけて間もなくすると、勝手口に背の高い男が現れ、それから戸棚の中の皿や丼などの食器が空中に投げ出されたり、鍋の上に土のかたまりが落ちて来る、火鉢やへっついがひっくり返るなどの怪異現象が起きます。
そこで、この池袋出身の娘を親元に帰すと、怪異はすぐに止んだのだそうです。
これらの怪異譚は、若い娘を中心にポルターガイスト現象が起こるという、まさに世界共通の要素を持った事件だったのかも知れません。