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紀長谷雄…鬼と双六勝負をして絶世の美女を手に入れた男

鬼
 
鬼と何かを賭けた勝負はとても危険をともなうが、勝てば普通では考えられないものを得ることができるかも知れない。そんな鬼との勝負を題材にしたお話があります。

物語の主人公は紀長谷雄(きのはせお)という人。この人物は平安時代初めから中頃の貴族で、従三位中納言という高い官位にありましたが、それ以前には文章博士・大学頭の地位にあり平安初期の文人としても名高い人です。もしかしたら、かぐや姫の「竹取物語」の作者ではないかという説もあります。

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鬼との勝負が描かれているのは、この紀長谷雄にまつわるお話を絵物語にした「長谷雄草紙」という絵巻物で、鎌倉時代から南北朝の頃の作と言われています。

 

鬼と双六勝負をする

ある日の夕暮れ、双六の名手でもあった紀長谷雄が内裏に参内しようとしていると、見知らぬ男が尋ねて来ます。この男、柔和な笑顔のなかに眼差しは鋭く普通の者とも思えぬ風体で、長谷雄は興味を覚えます。
男は「双六の名手であるあなたと勝負がしたい」のだと言う。ついては「良い場所があるので一緒に来ませんか」と。

この双六というのは、出たサイコロの目の数だけコマを進めて上がりを目指す双六とはまったく違うもので「盤双六」といい、2人の対戦者が白と黒の石に分かれて相手陣地に石を進めるゲーム。バックギャモンと同じルーツを持つものです。平安時代にはとても勝負性や賭博性の強いゲームとして遊ばれていました。

さて、男は双六勝負の場所へと長谷雄を連れて行きますが、そこは朱雀門の上でした。
男は長谷雄が勝てば絶世の美女を差し上げると言い、長谷雄は全財産を賭けることになりました。双六が始まると、いくらやっても長谷雄が勝ちます。男は双六に熱中していくうちに、人間の姿から徐々に鬼の形相へとその本性を現して行きます。長谷雄は恐ろしかったのですが我慢して双六勝負を続け、ついには長谷雄の勝ちとなりました。

 

鬼が造った美女、その正体は…

そして数日後、鬼は絶世の美女を連れて来ます。しかし、「百日間はこの女性を抱いてはいけない」と長谷雄に約束させます。
長谷雄はなんとか辛抱していたのですが、80日が過ぎる頃には我慢ができなくなり、ついには女に手を出してしまいます。すると女の身体は崩れ、水となって流れ去ってしまったのです。
それから三ヶ月ほど経ったある日、長谷雄は夜更けに内裏からの帰り道にあの男=鬼と出くわしました。男は「あなたは信義のない人ですね、素晴らしい方だと思っていたのに」と恐ろしい形相となって近づいて来ます。
長谷雄が「北野天神、助けたまえ」と祈ると、鬼は消え去って行きました。

実はこの男は朱雀門に棲む鬼で、長谷雄に差し出した美女というのは、様々な死者から良いところだけを寄せ集めて鬼が造ったものでした。百日経てば本物の人間になったのですが、長谷雄が約束を破って早く抱いてしまったために、溶けてなくなってしまったのでした。
この話がルーツかどうかわかりませんが、平安時代にはどうやら鬼は人間を造ることができるのだと信じられていたようです。

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