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中世の錬金術と火の精霊サラマンダー

サラマンダー

グラタンなど表面に焼き色がついている料理がありますが、この焼き色を付けることを「グラチネ」と言って、グラタンはそこから名付けられたそうです。一般の家庭ではオーブンレンジなどで調理しますが、プロの調理場ではこのグラチネには「サラマンダー」という調理器具を使うのをご存知でしょうか。

サラマンダーという調理器具は簡単に言えば上火だけのオーブンで、調理器具ができる以前には加熱した金属棒やシャベルに載せた焼いた石炭を料理に近づけて、グラチネをしていたのだとか。その名前は「四大精霊」のひとつで火の精霊のサラマンダーとまさに同じなのですが、じつは調理器具のサラマンダーの名称は火の精霊や錬金術から来たのだそうです。

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賢者の石の作成に必要だったサラマンダー

古代ギリシャで火の中でも燃えずに、火を操る存在と考えられていたサラマンダーは、中世のヨーロッパに錬金術とともに受け継がれると、とても重要な存在として考えられるようになりました。

というのも、錬金術師たちが求めた金を造り出す過程で触媒として必要とされる「賢者の石」は、それを作成する過程で使われる火をサラマンダーが司るとしていたからです。

中世ヨーロッパは錬金術と化学に境界がなかった時代であり、また精霊の存在も身近なものでしたから、料理においても仕上げに焼き色を入れる器具の名称の由来にサラマンダーがあったのももっともな話かも知れません。

 

 

中世ヨーロッパで信じられたサラマンダーの皮でできた布

古代ギリシャの哲学者アリストテレスが「火の中でも燃えない動物」「火の中を歩いて、火を消す」と言ったように、古代ギリシャ人はサラマンダーが火を操ったり火を打ち消したりする力があると考えていました。古代や中世の人びとは今日以上に火を怖れ敬っていましたから、このサラマンダーの力を手に入れたいと思うようになりました。

そこに現れたのが「サラマンダーの皮で作られた布」と呼ばれるものです。この布は綿のように柔らかいのに、火にかけても燃えず焦げ付きもしません。まさに火を操り火を打ち消すサラマンダーの皮で作られた布であると、人びとは信じました。

 

 

サラマンダーの布は日本の竹取物語にも登場していた!?

しかし実際にはこの布は石綿つまりアスベストで、精霊や生き物の皮ではなく鉱物繊維でできた布だったのです。この石綿はアジアから持ち込まれたもので、当時のヨーロッパでは知られていなかったので「サラマンダーの皮でできている」といって売られたのでした。

13世紀にアジアを旅したとされるマルコ・ポーロが、天山山脈でアスベストが採掘されているのを見てその正体を知ったという話もあります。

日本では平安時代の竹取物語に「火鼠(ひねずみ)の皮ごろも」という、焼いても燃えない布の話が出て来ますが、これは「火浣布」と言って火鼠の毛で織られた布であるとされますが、じつはこれも石綿のことでした。

アジアではサラマンダーではなく火鼠だったわけですね。江戸時代になると、発明家の平賀源内が秩父山中でアスベストを発見し、これを火浣布と名付けたそうです。

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