四神の神獣、朱雀とは(1)朱雀の姿かたちは?
おそらく日本で最も古いと思われる、奈良県明日香村の「高松塚古墳」と「キトラ古墳」で発見された極彩色の四神の壁画。しかし高松塚古墳では、その4体の神獣のなかで「朱雀(すざく)」だけは失われていました。そしてキトラ古墳が発見され、古代日本で描かれたその姿をようやく私たちの前に現したのです。
それではこの朱雀とは、いったいどんな神獣なのでしょうか。
陰陽五行思想から生まれた四神
四神とは中国大陸で古代から伝わる、東西南北の4つの方位を司るという神獣のことで、東を「青龍」が、西は「白虎」、北は「玄武」、そして「朱雀」が南を司ります。名前のとおり青い龍と白い虎、また玄武は蛇が絡みついた姿をした亀ですが、朱雀は赤い神の鳥ということになります。このように四神は方位だけでなく色も表していて、玄武は黒色の象徴です。またそれぞれが季節も表し、青龍が春、朱雀は夏、白虎が秋で玄武は冬とされます。
ところで、キトラ古墳の石室の四方の壁に描かれていたように一般には四神と言われていますが、実はもう1体の神獣の「黄龍」または「麒麟」が方位的には中央にいるのです。この黄龍または麒麟を含めて言ってみれば五神なのですが、なぜ5つの種類に分けられているのかと言うと、中国大陸の古い思想である「陰陽五行思想」から生まれたものだからなのです。
陰陽五行思想とは、ごく簡単に言うと宇宙の万物を「陰」と「陽」の二種類で捉え、また万物は5種類の元素から成り立つという考え方。その5種類の元素とは「火」「水」「木」「金」「土」で、これに太陽の「日」と「月」を加えると、1週間の曜日になります。従って5種類の元素では、朱雀が火、玄武が水、青龍が木、白虎が金、そして黄龍または麒麟が土を表します。
つまり朱雀で言えば、方位は南、色は赤、季節は夏で元素は火となり、単純にそれぞれのイメージだけでもつながってくるのがわかるかも知れません。
神鳥・朱雀はどんな姿をしているのか
それでは神鳥とされる朱雀とは、どんな姿をした鳥なのでしょうか?
朱雀とは中国の伝説上の鳥とされ、多くは全身が赤く翼を広げた姿で描かれます。神話上では鶏の頭に燕のあご、首は蛇で尾は魚のよう、身体には5色の模様があると言われています。
キトラ古墳の朱雀の壁画を見ると、頭は鶏(ニワトリ)のようで赤い身体は雉(キジ)のようでもあり、長く伸びて広がった尾は孔雀か日本の特別天然記念物の尾長鶏のようにも見えます。ただし日本の尾長鶏は、時代が下った江戸時代に土佐で鶏やキジ、山鳥などを交配させて作られた交配種だそうですが。
中国では朱雀は、錦鶏(キンケイ)というキジ科の極彩色の鳥や孔雀、あるいは鷹や鷲、燕や白鳥など多種多様の鳥がイメージの原型になっているのだとか。このように朱雀は全身が赤いということ以外、その姿かたちについては確定されたものがどうもないようです。同じく様々な動物のパーツが組み合わされて出来上がって行ったとされる龍は、現在ではほぼ一定の姿がイメージされています。しかし朱雀は龍よりもさらに捉えどころの難しい幻の神鳥なのです。