かぐや姫の「かぐや」って何?竹取物語の名前の謎
『竹取物語』の主人公であるかぐや姫は、どうして「かぐや姫」と呼ばれるのでしょうか?
光る竹の中から発見されたわずか3寸(約9cm)の小さな女の子は、竹取の翁(おきな)とその妻の嫗(おうな)によって籠の中で育てられ、3ヶ月でみるみる大きくなり美しい女性となってかぐや姫と名付けられました。
それではその「かぐや」という名前の意味は何なのか、じつはよく分かっていません。かぐや姫のお話を呼んだお子さんに、「どうして、かぐや姫という名前なの?」と聞かれても、現代の私たちは誰も本当の意味や理由は分からないのですね。
しかしその名前の謎を、いろいろと推測することはできます。
かぐや=輝く?
一般によく言われるのは、光る竹の中から見つけた美しい姫なので、光り輝くという意味の「耀う/赫う(かがよう)」などの言葉から「かがやく姫=かぐや姫」と名付けられたという解釈です。何となく納得しますが、果たしてそれだけの意味なのでしょうか。多くの謎が隠されている竹取物語にしては、シンプルすぎるかも知れません。
古来より、名前というのはその人やその物、神霊などの本質を表すものとして、とても重要視されてきました。特に神霊や妖怪など、この世のものではないものの本質や本体を知るには、本当の名前を知る必要がありました。
ですから、この世の人ではない女性のかぐや姫という名前にも、何か本質や本体を表すものが隠されているかも知れないのです。
かぐや姫の名付け親
かぐや姫という名前は、竹取の翁がつけた名前だと誤解されがちですが、じつはそうではありません。この名前は、「三室戸斎部(みむろどいんべ)の秋田」という人を呼んで、つけさせたと言うのです。
三室戸斎部の「斎部」とは「忌部氏(いんべし)」という氏族のこと、あるいは忌部という部民(職業ごとに区分された人たち)や忌部氏の私有民のことです。斎部・忌部の文字のとおり「斎戒(けがれを清める)」を意味していて、朝廷の祭祀をはじめ祭具づくり、宮殿の造営などを行っていました。また「三室戸」の三室は「三室山(奈良県斑鳩町)」のことと考えられていて、戸は人々の集団のことですから、三室山の辺りに住む忌部の一族・部民の秋田という人ということになります。そして竹取の翁が、わざわざこの忌部の秋田という人を呼んで名前をつけさせたのですから、竹取の翁と忌部の一族・部民と大いに関係があることがわかります。
現代でも産まれた赤ちゃんの名前を、祖父などその一家や一族の長老が命名する習わしがありますが、秋田という人は三室戸の忌部一族の長老であったのかも知れません。
かぐや姫と2つの「かぐや」との関連性
さて、かぐや姫の名前の「かぐや」からその関係性が言われているのは、ひとつは古事記・日本書紀に登場する火の神である「火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)」です。またもうひとつは、奈良県橿原市の「天香具山(あめのかぐやま)」です。
迦具土神は、神生み神話で伊耶那美(いざなみ)から生まれますが、火の神であったために陰部を焼かれ伊耶那美はそれが原因で死んでしまいます。そして怒った伊耶那岐(いざなぎ)により、十拳剣で殺されてしまうのです。このように迦具土神は、生まれながらにして罪を被せられている神というわけです。
一方、天香具山は天照大神の「天岩戸神話」の大和国における伝承地とされる神聖な山で、天照大神が隠れた天岩戸とされる巨石をご神体とした天岩戸神社があります。つまり光り輝く「日の神=天照大神」が一旦隠れ、再び姿を現した場所という意味合いがあります。
一方は、罪を被せられて生まれて来た「火」の神。もう一方は、一旦隠れ、再び姿を現し光り輝く「日」の神。どちらも伊耶那岐の子であり、「ひ」の神ではあるのですが。
暗い竹の中に隠され、のちに光り輝くように美しく育つかぐや姫の「かぐや」という名前には、この2つの神との関連が隠されているのでしょうか。かぐや姫は、じつは竹の中から現れた=再び生まれ出たときには、生まれながらにして罪を背負っていたことがあとでわかるのです。