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柳田國男『遠野物語拾遺』に収められた東北・遠野の天狗伝説

パワースポット
 
柳田國男氏がまとめた『遠野物語』には天狗の伝承が三話、続けて出された『遠野物語拾遺』には四話ほどあります。
今回は『遠野物語拾遺』から、遠野に伝わる天狗伝説をご紹介しましょう。

 

天狗が訪ねて来る家

『遠野物語拾遺』第98段には、こんな天狗のお話があります。

遠野の一日市というところに万吉米屋という家がありました。以前は繁盛していた大きな家で、ある日この家の主人の万吉が花巻温泉郷の鉛温泉に湯治に行って風呂に入っていると、とても大きな男が入って来ました。この大男は自分を天狗だと言うのです。鼻はそれほど高くはありませんが、顔は大きく赤ら顔でした。ちなみに遠野の天狗伝承に登場する天狗はみな大男で赤ら顔ですが、鼻高ではありませんね。

天狗様はどこから来たのかと聞くと、出羽(山形県)の羽黒山や南部(岩手県)の早池峰山などの山々を行ったり来たりしているのだと言います。万吉が遠野に住んでいると教えると、天狗は「五葉山(標高1,351m/三陸沿岸の最高峰)や六角牛山(標高1,294m/遠野三山のひとつ)にも行くので、おまえの家にも行くことにしよう。行ったらほかには何もいらないが、たくさん酒をごちそうしてくれ」と言い、どこかに行ってしまいました。

その翌年の冬に、天狗がふいに万吉の家を訪ねて来ます。天狗は、「これから六角牛山に行くところだが、2時間もすれば帰るので今夜は泊めてくれ」と言い出て行きました。そして本当に、2時間も経たないうちに帰って来たのです。天狗は六角牛山に行って来た証拠として、頂上に生える梛(なぎ/熊野神社ではご神木)の枝を見せました。ここから六角牛山の頂上までは片道で5、6里(20?24km)もあるので、万吉家の人たちは神業だと驚きおおいに酒を飲ませました。

それから天狗は年に1、2回ほど訪ねて来たのですが、酒を飲ませると、ただでは気の毒だといつも銭を置いていきました。そして最後に訪ねて来たときにこの天狗は、「俺も寿命だから、もう逢えないかも知れない。これを形見に置いていこう」と着ていた狩衣のような衣装を脱いで置いていき、天狗はそれきり姿を見せなかったということです。

その天狗の衣装は、いまもこの家に伝わっているそうです。同じような天狗の衣が家に伝えられている話が第99段にも収められていて、こちらの天狗は「清六天狗」という名前だそうです。やはり酒好きで、いつも酒を入れる瓢箪(ひょうたん)を持ち歩いていましたが、この瓢箪にいくら酒を入れてもあふれ出ることがなかったとか。

 

天狗ナメシのお話

第164段には、「天狗ナメシ(天狗倒し)」のお話があります。

深い山奥で小屋掛けをして泊まっていると、すぐそばの森から大木が伐り倒されるような音が聞こえることがありますが、これは天狗ナメシと言って、翌日にその辺りに行っても木は倒されていません。ちなみに天狗ナメシは、この地方の独特な言い方なのだそうです。

また、どどどんと太鼓を叩くような音が聞こえることもあります。これは「狸(たぬき)の太鼓」とも「天狗の太鼓」とも呼ばれ、この音が聞こえると2、3日後には山が荒れると言われています。

 

大岩と松の木の背くらべ

第10段には、天狗に関わるこんなお話もあります。

綾織村の山口にある大黒様(大黒堂)には、むかし「とがり岩」という大岩と「矢立松」という名の松の木が、どちらの背丈が成長するか競争をしたという伝説が遺っています。今ある岩は頭が少し欠けているのですが、これは天狗が「石の分際で、樹木と背くらべをするのはけしからぬ」と、下駄で蹴って欠いた跡なのだと言います。
また一説には、岩は負けてしまって悔しくなり、怒って自分自身で2つに裂けたのだとも言います。

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