ポルターガイストのメッカがイギリスに移った理由とは
「ポルターガイスト現象」のエポックメイキングと言われる「ハイズヴィル事件」は、1848年にアメリカ・ニューヨーク州北西部のハイズヴィルで起きました。この事件をきっかけにアメリカでは「スピリチュアリズム(心霊主義)」が隆盛することになりますが、しかしながらポルターガイストやスピリチュアリズムの中心はやがてアメリカからイギリスへと移って行きます。
それは、アメリカの開放的な風土や気質がポルターガイストやスピリチュアリズムには向いておらず、一方で「イギリスほど幽霊の多い国はない」と言われるほど、イギリス人は幽霊好きだったからだともされています。実際、ハイズヴィル事件によって始まったアメリカの職業的霊媒である「ミーディアム(霊能者)」のほとんどは、事件とスピリチュアリズムへの関心が終息するに従ってイギリスへと渡ってしまったのだと言います。
ポルターガイスト現象を起こす屋敷妖精ボガード
イギリスは伝統的に妖精や幽霊といった、生きている人間とは異なる存在を身近に感じることのできる風土がありました。
例えば「ブラウニー」という、主にスコットランドや北部イングランドで伝承されている妖精がいますが、この妖精は家や屋敷に棲みついていて、その家を栄えさせるとされています。そのブラウニーのような家に棲みつく妖精のひとつに「ボガード」というのがいて、これはポルターガイスト現象を起こすいたずら好きの妖精なのです。
ボガードは夜中になると、姿を見せずに屋敷の中に置いてあるものを動かす、食器をひっくり返す、さらには牛乳を酸っぱくしたり物を消したりする。エスカレートすると子供を戸棚に押し込んで隠したり、家の中をめちゃくちゃにしたりもするのです。
そうなるとポルターガイスト現象は止むことがなく、ボガードが棲みつかれた屋敷から引っ越すしかないのだとか。それもボガードに気づかれることなく荷造りを行って引っ越さないと、引越先までついてきていたずらを繰り返されてしまうのだそうです。
イギリスで盛んになる心霊現象研究
この妖精ボガードによるポルターガイスト現象や、別の記事でご紹介した17世紀にイギリス・イングランド南部のウィルトシャー州テッドワースのモンペッソン家で起きたポルターガイスト事件のように、イギリスをはじめとしたヨーロッパではポルターガイストは妖精や悪魔、魔術などによって引き起こされる現象であると考えられていました。
それが1848年のアメリカでのハイズヴィル事件とスピリチュアリズムの隆盛以降、イギリスでも心霊主義によるポルターガイストの研究が盛んになりました。なかでも中心的な存在となったのはフレデリック・W・H・マイヤーズで、彼はイギリスの牧師で霊媒としても有名であったウィリアム・S・モーゼスの降霊実験に感銘を受け、本格的に心霊現象の研究や思索を深めることとなり、師であるヘンリー・シジウィックらと共に「心霊現象研究協会(SPR)」を創立することになります。
ポルターガイスト現象と幽霊現象は同時には発生しない!?
そしてこのマイヤーズが心霊現象の研究の中で注目したのは、多くのポルターガイスト現象と幽霊が現れる現象とは同時には発生しないということでした。
どうして、ポルターガイスト現象と幽霊が現れる現象とが同時に発生しないのか。その真相はもちろんわかりません。しかし、ポルターガイスト現象と幽霊現象は違う現象なのではないかという疑問が持ち上がることになります。
19世紀以降のポルターガイストは、このような疑問のもとに心霊科学的な研究対象となって行ったのでした。