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万葉人も愛したパワースポット「天香久山」は謎の巨石群に彩られて

奈良盆地の南にある大和三山は畝傍山、耳成山、天香久山(天香具山)の三山から成り、国から名勝指定されています。かつてこの地に存在した都・藤原京を取り囲むようにそれぞれの山が位置し、キレイな二等辺三角形を描いていることでも有名。

 
天香久山

その中で、勇壮で特異なシルエットの畝傍山、ピラミッド的な美しさを漂わせる耳成山に比べ、いまいち目立たないのが天香久山。山というよりは小高い丘といった風情で、知らない人なら思わず通り過ぎてしまうたたずまい。

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しかし、現在でこそ大和三山の中で最も地味な存在である天香久山ですが、古代万葉歌人には愛されていたようで、他の二山に比べ多くの歌が詠まれています。中でも持統天皇の「春過ぎて~」の一首は、百人一首にも選ばれておりご存知の方も多いかと思います。

 

天香久山山頂に佇む国常立神社

 
天香久山
 
整備された登山道を10分ほど登っていくと、あっという間に山頂にたどり着き、開けたスペースの片隅にひっそりと国常立神社が鎮座しています。2つの小さな社殿には日本神話で最初に登場する根源神・国常立神、水や雨を司る・高靇神がそれぞれ祀られています。

社殿の前には雨請いの際に使われたとされる壷が埋められており、旱魃時にこの壷の中の水を新しい水に取り替えると雨が降るとのこと。

かつての都・藤原京の東に位置していたことから、太陽信仰の山として崇められていたとされる天香久山ですが、江戸期の大国学者・本居宣長の日記には「竜王の社」との記述もあり、時代の要請とともに太陽信仰から竜王信仰へと移り代わった様子が、国常立神と高靇神とを並び祀られていることからもうかがえます。

木々の間から畝傍山の姿も一望でき、登山口にあった歌碑、舒明天皇が人々の炊飯の煙などを見てこの地の美しさを讃えた「国見の歌」の光景が眼前に広がっています。

 

古代より信仰の対象だった月の誕生石

しかし、天香久山の見所はこれだけではありません。標高152.4メートルと低山ではありますが、謎多き巨石が点在しています。

 
天香久山
 
まずは「月の誕生石」なるロマンチックな名をもつ巨石。伝承によると、最初は人が抱えれるほどの丸い石が、どんどん大きくなりやがてはお月様を産んだといわれる巨石なのだとか。月の誕生石に残る白い斑点は、お月様が産まれた際の足跡だそうです。

UFOや宇宙人を想起させるような伝承ではありますが、古代より信仰の対象だったらしく、現在でも信仰している方がおられるのかお供え物なども見受けられます。

 

竜王を繋ぎ置いた蛇つなぎ石

「蛇つなぎ石」は岩肌に幾筋もの白い蛇のような細長い筋が入っており、雨請い信仰の対象である竜王(大蛇)を繋ぎ置いたともいわれる物騒な伝承が残る巨石です。

 
天香久山
 
さらに天香久山南麓にある天岩戸神社には、有名な天照大神の岩隠れ伝承にちなむ岩穴が祀られており、東麓に目を移すと道路を挟んで東側にある御厨子神社には、中央から刃物で斬り裂かれたかのような割れ目が特徴的な「月輪石」があり、天香久山は謎多き巨石群に彩られていることが分かります。

 

2つの顔を持つ天香久山

 
天香久山
 
登山道入り口の反対側には、四季折々の木々や草花が楽しめる万葉の森があり、整備された道を陽光を体にいっぱい浴びながらゆっくり散策することができる一方、太陽が木々に遮られた鬱蒼とした森の中を歩いていると、突如として現れる面妖な巨石群。

訪れる人も少なく、パワースポットとしての認知されることもなく、単なる景観の一部でしかなくなった感のある天香久山ですが、太陽信仰と竜王信仰という相反する信仰の対象であったこの山に呼応するかのように、対照的な光景を一度に見せてくれます。

「なぜ古代万葉人がこの天香久山を愛し崇めたのか」を考えなが散策してみるのもいいかもしれませんね。

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