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春日大社の遊歩道「春日山原始林」~石仏を巡る滝坂の道

奈良県にある有名なパワースポット・春日大社は見事な社殿だけでなく、世界文化遺産登録に際し非常に評価されたといわれている春日山の豊かな原始林も見所です。

 
滝坂の道

春日山原始林は遊歩道としても整備されており、連日大勢のハイカーの方たちが訪れているようです。その春日山遊歩道南口よりさらに少し南に下ったところに、中世から続く旧柳生街道、別名「滝坂の道」の入り口があります。

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滝坂の道は春日大社から剣豪の里として有名な柳生へと至る古道で、古くは奈良にある大寺の僧たちが修行に励んだ場所でもあり、柳生の名立たる剣豪たちが往来したといわれています。原始から残る深い森の中で、渓流の心地よい音が響き、木漏れ日を浴びながら歩く石畳の道は心身ともに癒されます、と思っていたのは最初のうちだけ。

 

磨崖仏との出会い

徐々に勾配が急になっていくに従い石畳の道は湿り気を増し、おそらく落石かと思われる巨石がゴロゴロとそこら中に転がっており、大きな木株や倒木が行く手を遮り、道が陥没しているところもある始末。

古道の厳しさをまじまじと感じつつ歩いていると、道々で石仏群(磨崖仏)が出迎えてくれ、疲れた心身を和ませてくれます。これら石仏群との出合いこそが滝坂の道最大の醍醐味でもあります。

ゴロリと転がっているただの石かと思いきや、実は寝仏という磨崖仏。この寝仏は釈迦如来、薬師如来、阿弥陀如来、弥勒菩薩からなる四方仏の一体がどこからか転がり落ちたものだとされており、室町時代前期ごろの作だといわれています。

 
滝坂の道

 

夕日観音と朝日観音

寝仏から少し先に進むと、古道から見てかなり高台の斜面に夕日観音といわれる磨崖仏が見えてきます。名前の通り夕日に映える観音菩薩をはじめ、地蔵菩薩や阿弥陀如来の磨崖仏もあり、鎌倉時代の作といわれています。

 
滝坂の道
 
夕日観音からさらに先に進むと、小川を挟んだ対岸に朝日観音を見ることができます。朝日に照らし出されることから名付けられた磨崖仏ですが、実際は観音菩薩ではなく両脇に地蔵菩薩を従えた弥勒菩薩であり、季節によっては朝日に照らされた御姿を見ることはできません。

 
滝坂の道
 
鎌倉時代中期・文永2年(1265年)との銘があるとのことですが、この前年には巨大彗星が出現するなど厭世観漂う時勢に制作されたことがうかがえます。また当時、猛烈な勢いで勃興した浄土思想を背景にした鎌倉新仏教(主に浄土宗)に対抗する教えとして、既存の南都仏教が提示した1つが弥勒信仰なのかと考えることもでき興味深いものがあります。

 

穴仏「春日山石窟」

鍵屋の辻の決闘で名高い荒木又右衛門が、試し斬りしたとの伝説が残る首切り地蔵を基点に道が二股に分かれ、北側に行くと春日山石窟仏、南側を行くと地獄谷石窟仏へとたどり着くことができます。

春日山石窟仏は穴仏ともいわれ、東西の岩窟に計16体の如来像、菩薩像などが確認されており、久寿2年(1155年)および保元2年(1157年)の銘が刻まれているそうです。

 
滝坂の道
 
人心がもっとも荒廃するとされる時代の到来、いわゆる末法思想が広く世間に流布しはじめた頃であり、既存の権力層を脅かす武士という新興勢力が力を持ちはじめた頃に造立されたことになります。

激動の時代を見守ってきたであろう春日山石窟仏ですが、今では朝日に照らされ優しい御姿をとどめておられます。

 

聖人窟「地獄谷石窟仏」

地獄谷石窟仏は地獄谷園新池の側を通り、奥山ドライブウェイを横切ると、周りは春日山の原生林から植林へと変わった山道をしばらく登ったところにあります。

地獄谷石窟仏がある石窟は、鉄柵でぐるりと囲まれており厳重に守られています。中央に奈良時代後期の作といわれる盧遮那仏(釈迦如来ともいわれている)、室町時代ごろに追刻されたといわれる二仏、向かって左が薬師如来、右が十一面観音です。とある聖人が住んでいたとの伝承から聖人窟ともいわれています。

 
滝坂の道
 
微かに残る朱色と苔の緑色とが混ざり合い、薄暗い岩窟から浮かび上がるかのように絶妙な発色する石窟仏に、鉄柵にしがみつきしばしの間見とれてしまいました。

誰もいない森の中で、約1200年前に彫られ今も淡く発色をする石窟仏と静かに向き合っていると、気持ちがとても穏やかになり、心中をいったんリセットされたような感触がありました。

 
太古の自然を今に残す春日原始林、その中を通る風情が残る石畳の古道、世相が乱れるたびに彫られた信仰の証である石仏群。体力的には少々きついですが、太古の息吹と生の信仰を感じることができる数少ない古道なので、奈良に来られた際はぜひ訪れてみてください。

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