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大渦潮を引き起こす海の怪物カリュブディスとスキュラ

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海の巨大怪物「クラーケン」の特徴や正体を探ろうとしてそれがとても難しいのは、この怪物のついて書かれた伝承や記述がとても少ないことです。

12世紀から13世紀の中世にアイスランドで書かれた北欧の「伝説のサガ」や、時代が下って18世紀のエーリク・ポントビダンの『ノルウェー博物誌』(1752年)、ヤーコブ・ヴァレンベリの『マイ・サン・オン・ザ・ガレー(ガレー船上の息子)』(1781年)を別の記事でご紹介しましたが、最も古い「伝説のサガ」に登場する怪物も「ハーヴグーヴァ」と「リンギバク」という名前で、後にこれがクラーケンのことだろうとされたものなのです。

さて、この北の海にいるというハーヴグーヴァとリンギバクの2つの海の怪物から、ギリシャ神話に出て来る別の海の怪物、それも同じく2つの怪物の物語が思い浮かびます。

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渦潮がもとになった北欧の海と地中海の怪物

ギリシャ神話や英雄オデュッセウスが主人公の長編叙事詩「オデュッセイア」には、「カリュブディス」と「スキュラ」という2つの海の怪物が登場します。この2つは、地中海のシチリア島とイタリア半島の先端の間にあるメッシーナ海峡に棲んでいて、特にカリュブディスは「渦潮」がその由来とされる怪物です。

クラーケンが海中に潜るときには大きな渦ができて、船も人も飲み込んでしまうとされていますが、カリュブディスも渦潮をイメージした怪物というわけです。メッシーナ海峡はいちばん狭いところでは幅が約3キロメートルの狭い海峡で、橋が架けられる計画もありますが(現在は計画が中断)、この海峡の大きな特徴は世界三大潮流のひとつともされ、同じく三大潮流のひとつの日本の鳴門海峡と同じように渦潮ができることです。

大渦潮を意味する「メールストローム」という言葉は、北欧ノルウェーのロフォーテン諸島にあるモスケン島周辺の海域で発生する大渦潮が語源となっていますが、この「モスケンの渦巻(渦潮)」はクラーケンが起こすと伝えられています。つまり大渦潮のあるところに海の怪物が棲む、ということでしょうか。ちなみに、鳴門海峡には怪物はいないようですが。

 

カリュブディスとスキュラ、2つの怪物の話

メッシーナ海峡の怪物カリュブディスは、ギリシャ神話ではもともとは海神ポセイドンと大地の女神ガイアの間の娘でした。しかし並外れた大食い娘で、あるとき3つの頭と3つの身体を持つゲーリュオーンが飼う牛を盗んで食べてしまい、最高神のゼウスから罰を受けて海の怪物となり、メッシーナ海峡で船を襲うようになったということです。

一方のスキュラは、もとはシチリア島に住む美しい娘でした(下級女神である海の妖精という説もある)。あるとき、海神のひとりのグラウコスが彼女を見初めますが、スキュラの心を射止めることができません。

そこでグラウコスは、魔女のキルケーに力を借りようとします。しかしこの魔女は自分がグラウコスに惚れてしまい、なんとかスキュラを諦めさせようとするのですが、グラウコスはキルケーを選ぼうとはしませんでした。キルケーは怒り、恋敵であるスキュラに呪いをかけてしまうのです。

キルケーの毒薬と呪文で呪いをかけられたスキュラは、上半身は美しい娘の姿のまま、下半身には魚の尾と6つの犬の頭、12本の犬の足を持つ怪物の姿となり、凶暴な性格へと変貌し、メッシーナ海峡に棲んで船乗りを襲うようになってしまいました。

 

オデュッセウスを襲った海の怪物

「オデュッセイア」では、トロイアとの戦争に勝ちギリシャへの帰路につく英雄オデュッセウスが、シチリア島の近くを船で通りかかります。

カリュブディスが1日に三度起こすという巨大な渦は、あらかじめ用心をしていたのでうまく逃れますが、海中にいて姿の見えないカリュブディスに気を取られているうちに、運悪くオデュッセウスの船はスキュラに近づいてしまいました。スキュラは6本の長い首を伸ばして6人の乗組員を襲って捕まえ、連れ去ってしまいました。

このスキュラも、やがては岩と化してしまうのですが、それでも怪物の姿を残した岩として船乗りからは相変わらず怖れられたのだそうです。

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