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天狗にも女性がいた?!尼天狗と女性に取り憑いた天狗のお話

羽黒山参道杉並木
 
平安時代の女性の鬼というと、どうしても怨念や情念が嵩じて鬼となってしまった哀しくも恐ろしい存在を思い浮かべてしまいますが、天狗の場合にはどうも違うようです。
今昔物語の巻20には、女性にまつわる天狗のお話が二つ出て来ますが、そのどちらも恐ろしい物の怪というよりは、天狗のひとつの特徴であるいたずらもの的な性格を匂わせています。後世には「女天狗」として分類される女性の天狗の原点ともいうべき、今昔物語の二つのお話を紹介してみましょう。

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木から落ちた尼天狗のお話

今昔物語の巻20第5話には、仁和寺の僧正が尼天狗に出会ったというお話が語られています。
今は昔、仁和寺に成典僧正という徳の高い坊さんがいました。成典僧正は平安時代中期に実在する真言宗の僧侶で、広沢の遍照寺の住持であった著名な寛朝大僧正を師に持ち、密法を修めた人です。この成典僧正が仁和寺で修行をしているとき、仁和寺の円堂院という院家(いんげ、寺内の僧侶が住む小寺院)に天狗がいると畏れられていました。

ある夜、成典僧正がひとり仏前で修行をしていると、堂の隙間から頭に帽子をかぶった尼が覗いているので、どうしてなのかと思っているといつの間にか部屋に入って来て、傍らに置いていた三衣箱(さんえばこ、僧が着る三種の袈裟を入れる箱)を取って逃げて行ってしまいます。成典僧正が後を追うと、尼は堂の後ろの高い槻の木(つきのき、ケヤキのこと)に登っているのでした。

僧正がこれを見上げて加持の祈祷(きとう)を行うと、尼はこらえきれずに木の上から地上に落ちてしまいます。僧正は尼と三衣箱を引っ張り合い、ようやく奪い返しますが、尼は三衣箱の片端を引き破って逃げて行ってしまいました。尼が登った木は今でもあり、またこの尼は尼天狗だということです。
どうして尼天狗が成典僧正の三衣箱を奪って逃げたのかはよくわかりませんが、どうやら天狗のいたずらだったようです。

 

天狗が憑いた女が尋ねて来たお話

もうひとつのお話は第6話で、天狗が憑いてしまった女が通ってくる話です。
今は昔、京の東山に仏眼寺というお寺があり、仁照阿闍梨(あじゃり)という大変に験のある(加持祈祷の強い力を持った)僧がいました。
この仁照阿闍梨を、30から40歳ぐらいの女が干飯(ほしいい)や堅塩わかめなどの供え物を持って尋ねて来ます。この女は阿闍梨にお仕えしようと思って来たというのです。そしてその後も、お米やら果物やらその都度供え物を持って何度もやってきます。

そういったことが続いたある日、このお寺には仁照阿闍梨以外には皆出かけてしまって誰もいない日がありました。そこにやってきた女は「本当は話したいことがあって通って来ていたのですが、いままでは他の人がいて話せなかったのです」と阿闍梨を人気のないところに呼びます。なんだろうと近づくと、この女は阿闍梨を捕まえて「あなたを想っています。助けて下さい」と迫ります。阿闍梨はびっくりして離れようとしますが、女は力任せに引き寄せようとするのです。

「仏に申し上げずに言う事は聞けない」という阿闍梨を女は無理矢理捕らえ、持仏堂の方へと連れて行こうとしますので、阿闍梨が「魔物に取り込められました。不動尊よ助けて下さい」と額を床に強く当てて祈ると、女は二間ばかりも飛ばされ、両腕を上げてまるで独楽のようにくるくる回り出します。そして女は「お助け下さい」と大きな声で叫び、何度も頭を柱に打ちます。

阿闍梨が起き上がって「これはどういうことだ」と問うと、女は「私は白河に通う天狗なのですが、このお寺の上を飛んで通り過ぎるとき阿闍梨の修行が途絶えることがなく、また鈴の音が貴く聞こえたので、堕落させてやろうとこの女に憑いて近づいたのです」と白状しました。「もう懲りていますので赦して下さい」と天狗の憑いた女は泣きながら言うので、阿闍梨が赦すと女は出て行ったということです。
この女に憑いた天狗も恐ろしいというよりも、徳の高い阿闍梨をたぶらかそうとして逆に懲らしめられる、どちらかというと滑稽な物の怪として描かれています。

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