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フランケンシュタインの怪物と人造人間物語の系譜

070726
 
これは以前に、日本の鬼の伝説について書いた記事のなかでご紹介したことがあるのですが、平安時代の歌人である西行が高野山の奥に住んでいた頃、なんと人造人間を造ったという伝説があります。

それによると、鬼が人骨を集めて人間を造るように西行も造ってみようと考え、その方法を教わって骨を並べ造ってみたところ、失敗したらしく出来上がった人造人間には人の心がなく、またちゃんとした声を出すことができなかったのだそうです。ということで、その失敗作は高野山の奥に捨てたのだとか。

どうも小説『フランケンシュタインの怪物』に少々似ていなくもないのですが、この西行のお話は12世紀の日本でのことで、19世紀初めのイギリスの作者であるメアリー・シェリーが知っていたとは思えません。しかしながら、人間が人造人間を造り出すという物語には、共通してこのような失敗や悲劇がつきまとうようなのです。

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ヨーロッパの人造人間にまつわる系譜と背景

『フランケンシュタインの怪物』の主人公であるヴィクター・フランケンシュタインが早くから没頭したという「錬金術」で、自分で動いて会話のできる「オートマタ(自動人形)」を製作したというアルベルトゥス・マグヌスは13世紀の人。また「ホムンクルス」という人造人間を造ったとされるパラケルススは、16世紀の錬金術師です。

その後のヨーロッパでは、17世紀に「我思う、ゆえに我あり」で有名な哲学者のデカルトが、精神と身体とは異なる2つの実体とする二元論から、「動物はひとつの自動機械とみなされる」という「動物機械論」を提唱し、18世紀になるとフランスの哲学者ラ・メトリーが人間は柔らかい機械に過ぎないと見なす「人間機械論」を唱えました。言ってみれば人間もまた機械であるのなら、造り出すこともできるということでしょうか。

またメアリー・シェリーが『フランケンシュタインの怪物』を着想した1816年頃には、イギリスのロンドンで生命原理についての科学論争も起こっていました。つまり古代からの錬金術的な今で言うオカルト科学的な流れと、16世紀から始まる近代科学の流れが交差するなかで小説『フランケンシュタインの怪物』は書かれたわけです。

 

フランケンシュタインから始まる人造人間の物語

メアリー・シェリーはSF小説の母とも呼ばれていますが、『フランケンシュタインの怪物』以降今日まで、人造人間や人工生命体に関わる多くのSF作品が世に出ました。

例えばイギリスのH.G.ウェルズが1896年に発表した『モロー博士の島』では、生体解剖を行って学会を追放され孤島で動物を人間化する研究を行うモロー博士と、様々な獣人が登場します。ある日、モロー博士が獣人に殺害され、この事件から獣人たちは人間性を失って獣化してしまいます。

20世紀になると、チェコの劇作家カレル・チャペックが1920年に「R.U.R」という戯曲作品を発表します。この物語では、原料から人工的に培養されて造られた脳や内蔵、骨といった器官を組み上げて造られたロボットが登場します。多くのロボットが生産され人間に代って労働を行うようになりますが、それによって人間は退化しロボットは人間に反乱を起こすのです。

1950年には、ロボットを題材としたSFの古典的名作である短編集、『われはロボット』がアイザック・アシモフによって発表されます。この作品のなかで、人間に従うべきロボットの原則である「ロボット工学三原則」が盛り込まれ、それは現実のロボット工学にも影響を与えました。

 

ブレードランナーとフランケンシュタインの怪物

人造人間を主要なモチーフとした作品としてわたしたちに印象深いのは、「ブレードランナー」のタイトルで映画化されたフィリップ・K・ディックのSF小説、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』ではないでしょうか。

1968年に発表されたこの作品が描く未来世界では、第三次世界大戦によって自然が壊滅的打撃を受けたことから、昆虫や動物などあらゆる生物は厳重に保護されています。その一方で人造人間は知性や感情を持ち、人間としての記憶すらも持っていて、自分が人造人間であることを認識できない存在もいるのです。

罪を犯した人造人間を処理するハンターである主人公のリック・デッカードは、人造人間を追うなかで人間と人造人間の区別がつかなくなり、その違いや人間とは何かという根源的な問いを考えるようになります。この作品では、知性を持った人造人間が追われ逃亡し、さらには人間を殺害するというストーリーが描かれており、それは『フランケンシュタインの怪物』の悲劇を現代に引き継ぐ物語であるのかも知れません。

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