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知謀と財力の顛末…かぐや姫が出した車持皇子・阿部御主人への難題

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『竹取物語』では5人の貴公子とのお話が最も長いパートで、全体の3分の2以上を割いています。
こういった結婚の条件として女性から難題を出すお話は、「難題求婚譚」と呼ばれていて世界中の物語にあります。しかし竹取物語の不思議は、一般に「難題求婚譚」難題を解決して目出たくハッピーエンドとなるのに対して、5人もの求婚者のお話が続くのにも関わらずすべてが失敗に終わるということです。そして5人の貴公子はみな、決して英雄でも特別な苦労をするわけでもありません。

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別の記事で第1の求婚者である石作皇子への難題をご紹介しましたが、それでは今回は第2、第3の求婚者への難題をご紹介しましょう。

 

車持皇子への難題

第2の求婚者「車持皇子」のモデルは、時の権力者である藤原不比等とされています。なぜ皇族の「皇子」とされているかと言うと、不比等は天武天皇の二代前の天智天皇の落胤という説があって、母の車持与志古娘は妊娠中に天智天皇から父の藤原鎌足に下げ渡された女性だからということです。

かぐや姫から出された車持皇子への難題は、「蓬莱の玉の枝」というものを持って来てほしいというものでした。蓬莱の玉の枝とは、根が白銀、茎が金でできていて珠玉の実が生る、蓬莱=仙人が住むという場所にあるというものです。だいいち蓬莱がどこにあるのかも分かりませんし、この宝物も探して持って来るのは普通の人間にはどだい無理な話。

そこで物語は車持皇子が「心たばかりある人にて」として、自分は探しに行くと言い船で出発しながら、蓬莱の玉の枝の偽物をひそかに職人に作らせます。それが出来上がると、今度は船で帰って来たと知らせてその偽物を都に運んだのでした。

やがてかぐや姫の屋敷に持って来たのですが、どうやら難題を車持皇子が解いたようだと、かぐや姫はいまいましく思いながらも観念します。するとそこに職人たちが現れて、「偽物を作れば官職を授け代金も払うと車持皇子に言われましたが、姫が望んだものだと知りましたのでこのお屋敷から代金を支払ってほしい」と申し出たのでした。あっという間に、車持皇子のウソはばれてしまったのです。

かぐや姫から褒美をもらった職人たちは、帰り道に車持皇子の家来が打ちのめし褒美を取り上げてしまいます。そして車持皇子本人は、一生の恥と言ってひとり深い山の中に入り消えてしまうのです。「心たばかりある人」とは知謀がある人という意味ですが、その知謀にはこのような無惨な結末が用意されていました。

 

阿部御主人への難題

第3の求婚者である「阿部御主人(あべのみうし)」は実在の人物。左大臣だった阿部内麻呂の子で、晩年には右大臣となりました。

その阿部御主人への難題は、「火鼠皮衣(ひねずみのかわごろも)」を手に入れて来るというもの。「火鼠」とは、南方の火の山にある「不尽木(ふじんぼく)」という燃えることのない木の中に住むネズミの妖怪で、この火鼠の毛を織って作られた布は「火浣布(かかんふ)」と呼ばれ、火に燃えない布だというものです。実際は石綿(アスベスト)のことだと言われていますが、石綿は古代エジプトや古代ローマの時代からありました。日本ではずっと後代の江戸時代に平賀源内が発見し、幕府に献上したそうです。

さて、阿部御主人がどうしたかというと、この人は裕福だったので唐の国(中国)に人を派遣して商人から火鼠皮衣を購入しようとしました。つまり、お金の力でなんとかしようとしたのです。そして唐の商人からは、天竺(インド)の僧がむかし持って来たものをやっと買い取ったと、火鼠皮衣が船で運ばれて来ました。

阿部御主人は早速、かぐや姫のもとに持って行きますが、かぐや姫がその火鼠皮衣に火をつけさせると燃えてしまい、すぐに偽物であることが判明してしまうのです。
苦労もせず、難題をお金で解決しようとした結果は、あっけないものでした。

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