ジンクスと黒い白鳥~そのジンクスは自分にも当てはまる?
「黒い白鳥」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか。英語にはかつて、ムダなことに労力をかけることを諌めることわざとして、「黒い白鳥(ブラックスワン)を探すようなこと(はやめよう)」というものがありました。その後、1690年代にオーストラリアで現実に黒い白鳥(白鳥に対して、黒鳥とも呼ばれています)が発見された際には、世間では驚きでは括りきれないような大きな反響があったそうです。この「黒い白鳥」という概念は、ジンクスの考え方に通じる部分があるようにも思えます。ここでは、ジンクスと黒い白鳥の関連性について、考察していきます。
黒い白鳥とは何か
黒い白鳥は、「滅多に起こらないことの象徴」であることの他、「それまで信じられていた常識的な事象が、ある日突然覆されたときに起こる反響」を指すこともあります。ブレイクスルーという言葉も、何かをきっかけに、それまでの事象を変化させるきっかけとして表現されていますが、これに近い言葉として「黒い白鳥」は語られています。2006年に刊行された本「ブラックスワン」において、著者であり、認識論学者で、元ヘッジファンド運用者としての顔も持っているエッセイスト、ナシーム・ニコラス・タレブ氏は、この本の中で「黒い白鳥」現象について、「確率論や、従来からの知見や経験からでは予測できない極端な事象が発生した場合に、その事象が世間の人々に多大な影響をおよぼすこと」について、「ブラックスワン(=黒い白鳥)理論」として解説しています。
帰納と演繹の関係
ご紹介したエッセイストの著書でも引き合いに出されている「帰納(きのう)と演繹(えんえき)」とは何かというと、「結論を導くためのフレームワークにおける、2つの大きな方法」を指しています。帰納の方は、「多くの事実をよせ集めて、『全部がそうだ』と結論づける方法」であり、演繹の方は、「事実から逆引きして結論を導き出す方法」です。黒い白鳥を例にとると、帰納的な視点で1690年に黒い白鳥が発見されるまでは、「白い白鳥ばかりがいるから、白鳥は白い」と結論づけられ、人々は皆それを信じていたわけです。
ジンクスの目指すところ
こういった意味合いにおいて、ジンクスにも二面性があることに気づかされます。「多くの人がそのジンクスに当てはまるから、自分にも当てはまる」といった帰納的な観点と、「事実を積み重ねることから真実を導き出すため、結論づけられていないことを多く含んでいる事実には無限の可能性がある」という演繹的な観点です。ジンクスは、前者では統計的にありえることを示し、後者では無限の可能性を示している、といえます。ジンクスが示唆しているものは、事実にとどまらず、「その先にある解明できていないもの」をも包含しているのです。