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歴史上の謎はなぜ生まれるのか~歴史研究者がなすべきこと

不思議な体験
 
本稿では歴史上の謎が生じる原因を整理してみました。

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1. 歴史の研究とは

歴史とは、過去の社会的事象、すなわち、「いつ頃、何が、誰により、どんな理由で、どのようになされて、その結果どうなったか。」という事象の時系列的な集積ではないでしょうか。ところが、過去の社会的事象の殆どは後世の人が知り得る形で残っていません。

歴史学は、それらの主要な事象を把握し、記録し、正誤の判断をし、整理し、それら同士を関連づけ、解釈し、説明する学問の体系だと思います。歴史学者は歴史学の発展させる研究者です。過去の研究成果を学ぶだけでなく、過去の社会的事象について何らかの点で新しい知識を導き出し、新しさと正しさの根拠を示さねばなりません。もちろん、その手段は研究論文を発表することです。

研究のためには真理を尊び、真理を探究する精神が常に発動されねばなりません。研究者が研究成果以外に不純な動機をもってはなりません。権力や名声やお金を求めてはなりません。また、真理を探究する研究者や活動に対し、国民や権力者や官憲などから制約を課されたり、不当に干渉されたりしてはなりません。

 

2. 研究者について知ろう

歴史を明らかにする主要なプレーヤーは研究者です。歴史研究者の置かれている状況を推定します。

 

(1) 研究者をとりまく環境

 自然科学や工学の研究者と歴史分野の研究者とは同列には論じられません。所属研究室の指導者とまったく異なる研究課題に取り組むことや、異なる手法で研究することは分野を問わず同じです。しかし、自然科学者は純粋に真理を追求できます。工学者もこれ迄にない機械や設備を作り出すため、あるいは既存のものより高機能・高性能の機械や設備やシステムの研究が可能です。隘路となるのは、研究スタッフや研究費の獲得です。

 しかし、歴史学者の研究環境は複雑です。研究室の指導者と異なる学説を唱えることは困難です。学会の定説への疑問の表明や、学会のタブーに挑戦するには研究者生命を失う覚悟が必要です。

 

(2) 研究者の条件とは

 理工系は特にそうですが、博士号を得ないことには研究者として認められません。また、博士号を得ても安泰ではありません。学位取得後は、発表した論文の総数や最近5年間の発表論文数が研究者でいる限り問われます。学内の地位、研究費、ひいては給与に関係します。このような事情から若い研究者は論文数を気にしなければなりません。研究内容がある程度まとまるまでに10年程度はかかるような研究はしたくてもできないのです。

 

(3) 歴史の研究は難しい

 この10数万年間の人類の活動に範囲を絞っても、過去の社会的事象のうち分かっているのは僅かです。歴史学が明らかすべきことは無数にあります。しかし、過去の事象の正確な把握は簡単ではありません。成果を論文の形で発表するには主張の根拠を示さねばなりません。しかし客観的な根拠を示すのが難しい場合もあります。主張する内容が長期間にわたる事象、地域的に広範囲にわたる事象、定説と大幅に異なる主張の理由付けなどは簡単ではありません。遠い過去の事象ほど正確な把握や説明づけが困難です。身分が安定していない若手研究者の場合は論文にしやすい研究テーマを選ばざるを得ません。生活に不自由のない自由人でもない限り、長期にわたる歴史の研究はできません。

 

3. 歴史上の謎が生まれるわけ

 歴史上の謎が発生する原因は様々です。最大の理由は、研究対象にしてないか、研究を開始しても難しくて簡単には解明できない場合があります。また、あまりに大きな課題のため研究テーマに取り上げない場合もあります。以下に謎の原因を列挙します。

 

(1) 真実が明らかになっていない事象

研究者が研究対象と認識してないか、認識はしても研究しない(権力機関の妨害、民衆の非難、研究者の恐れ、過大なテーマ、研究者や研究費の不足などの理由があげられます)か、着手はしても研究が進んでない場合などです。

 

(2) 政治権力による事実の隠蔽・改造・抹殺

 時の政治権力の意思により抹殺、粉飾、捏造された事象です。事象には出来事、様々な物、文書などがあります。理由や経緯を追跡しなければなりませんが一介の研究者がどこまでできるでしょうか。

 

(3) 軍関係による事実の隠蔽・改造・抹殺

 軍事勢力による歴史の改変があります。占領地の文書の抹殺、遺跡の破壊や移動、地名や山河の名前の詐称などです。その当時の状況を頭の中に再現するだけでも大変な仕事です。証拠を固めるのはさらに大変でしょう。

 

(4) 学会の自己保存・権力への接近や妥協

 政治権力や軍関係に迎合した学説を展開することもあります。は、権力をもたない学会や研究者には苦渋の選択だったでしょう。証拠資料を集めて分析し、事実を曲げた理由を明らかにしなければ謎のままになります。

 

(5) 国家の体面もある

 前の国家を倒した新国家が前の国家を賞賛することはありません。他国を征服した国家も征服された国家を賞賛することはないでしょう。新国家に都合のよいように歴史は変えられます。

 

(6) 混乱回避のための事実隠蔽

 たとえ真実でも社会の混乱させる類の謎があります。取り扱いは慎重になります。進んで解明しようとする研究者はいても極めて稀でしょう。

 

(7) 一般人の過度な熱情

 国民や特定の団体の熱情が自由な研究を妨げる場合があります。ひるむことなく研究するには相当の覚悟が必要です。

 

4. 歴史研究の理想的な姿とは

基本的な姿勢は真実を明らかにすることです。未知の事物を解明し、変えられた事実は元の姿を知ることです。間違った理解も訂正しなければなりません。ただし、訂正は知識や認識の範囲にとどめ、現在を生きる個人・団体・国家などに影響が及ぶのは避けねばなりません。

 

(1) 故意に曲げた事実は原状復帰を

国家を含めて当事者を非難し罪や責任を問うことはしません。知識や認識を真実に戻すだけです。なお、事実を曲げた理由も素直な姿勢で理解しなければなりません。原状復帰の対象には、削除あるいは無視した事象、捏造した事象、改変あるいは粉飾した事象などがあります。

 

(2) 誤解した事実を明らかに

人は誰でも間違うことがあります。間違いは間違いとし理由と共に明らかにします。立場による見解の相違は間違いではないとします。間違った人の責任追及は厳禁にしなければなりません。

 

(3) 新たな歴史研究をすすめる

未知の歴史上の事象は無数にあります。大学や研究所の研究者だけでは不十分です。市井の研究者も積極的に参加できる仕組みを作る必要があります。

 

(4) 基本的な姿勢

(a) 人や物の移動については、出発地と中継地とは区別します。「朝鮮半島から来た」と言うことと、「エジプトを発って朝鮮半島を経由して来た」とは意味することが違います。

(b) 文化・知識・芸術・文物の移動については、人から人への手わたしによる移動か、保有している人の移動によるかを区別します。

(c) その社会の人の構成については、支配階級と被支配階級の区別、企画をする階層と企画を実施する階層の区別も必要です。

(d) 歴史の研究では、文字の有無、特定宗教の信者か否か、肌の色、特定文化の優越性などを判断の基準にすべきではありません。

 

5. まとめ

 本稿では歴史上の謎が.生まれる原因を分類し整理しました。謎を解く仕事は大学などの研究者に委ねられますが、すべてを任せていいのでしょうか。歴史の研究者が置かれている環境について多少の考察をした結果によれば、研究機関の研究者だけでは謎は解消しません。研究の対象になりにくい謎は手つかずに残るのです。市井の研究者の活動や、公的機関での調査・整理の活動も必要です。また、謎の解明には、個人・団体・国家のすべてが、真実こそ最も大切なものとする意識を共有する必要があります。

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カテゴリ: その他

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