ラグナロクの原点、ロキに殺されたバルドル
北欧神話を綴った「エッダ」という古文書には、作成された年代や規模、形態によって「古エッダ」、「新エッダ」、「小エッダ」と大きく三種類が存在していますが、新エッダ(13世紀に活躍したアイスランドの詩人、スノッリ・ストゥルルソンが著したといわれていることから「スノッリのエッダ」とも呼ばれています)のなかで、光の神バルドルは、非常に賢明で、かつ見た目も眉目秀麗、光り輝く美貌と白く長いまつ毛を持ち、さらには雄弁で賢明であったという、絵にかいたような「善神」として描かれています。
このバルドルこそが、最終戦争であるラグナロクを招くきっかけになった「ロキの殺害事件」の犠牲となった神なのです。
優柔不断な面もあった
バルドルは、前述したように非常に良い面を強調されている神なのですが、唯一ともいえる欠点が、優柔不断な面であった、といわれています。しかし、神としての「あらゆる物事に対する裁き」においては、決してぶれることはなかった、といいます。
バルドルの両親は、父は北欧神話の主神であるオーディン、妻はネプという神の娘であるナンナでした。バルドルもナンナも、神の種族であるアース種族であり、種族が集まっているというアースガルズで暮らしていた、とされています。
後にバルドルを謀殺することになるロキは、バルドルの父オーディンとは義兄弟の関係なのですが、ラグナロクで敵対することになる巨人族の血を引いており、(あくまでも北欧神話のストーリーにおける関係ではありますが)アース神族であるバルドルとは、いずれ敵対する可能性のある、「宿命の関係」でもあった、と考えられます。
バルドルの夢
前述の「古エッダ」の中には、「バルドルの夢」というエピソードがあり、ここでロキの謀略のプロローグが描かれています。バルドルが悪夢を見たことに端を発して、心配した父オーディンが、死んだ巫女をよみがえらせてバルドルの運命を語らせるのです。
古エッダに記載された詩では、巫女の答えは「バルドルは(ロキの謀略で異母弟である)ヘズに殺される。そのヘズは、オーディンとリンドの間に生まれて、次の日には武器をもって立ち上がったヴァーリによって復讐される」とのことでした。
図らずもこの予言は的中することになるのですが、ラグナロクに至るまでのエピソードは、「新エッダ」の中の「ギュルヴィたぶらかし」や「巫女の予言」などで、「バルドルの夢」とはまた微妙に違ったエピソードとして語られています。
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