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造り出された怪物:フランケンシュタインと錬金術

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ドイツ、フランクフルトの南に位置するダルムシュタットから5kmほど南に行くと、丘の上に「フランケンシュタイン城」があります。この城はフォン・フランケンシュタインという貴族が13世紀に建てたもので、現在ではその全容を窺うことはできませんが、かつては大きな要塞城であったそうです。

フランケンシュタインと言えば、イギリス人女性のメアリー・シェリーが1818年に出版した小説『フランケンシュタインの怪物』の主人公であり、怪物を造り出した科学者ヴィクター・フランケンシュタインと名字が同じです。
そしてこのフランケンシュタイン城は、17世紀後半になると錬金術師で自然科学者、医師でもあるヨハン・コンラッド・ディッペルという人の居城になりました。このフランケンシュタイン城のディッペルこそ、ヴィクター・フランケンシュタインのモデルだとされています。

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死体泥棒と噂された錬金術師

ヨハン・コンラッド・ディッペルは、「ディッペル油」という動物の骨を炭化させて得られる不快な匂いがする暗色の油や、「紺青(花紺青/プルシアンブルー)」という人工顔料の発明で知られています。しかし一方では、今日で言うマッドサイエンティストであり、解剖学に関心を持っていて、夜な夜な墓地から死体を盗み出して解剖する「死体泥棒」とも噂され、異端者として収監されていたこともあったそうです。

怪物を造ったヴィクター・フランケンシュタインが、怪物の身体のパーツとするために墓場から死体を盗み出すという行動の元ネタは、まさにヨハン・コンラッド・ディッペルにまつわる話から来ているのでしょう。そして重要なのは、このディッペルが錬金術師だったということなのです。

 

錬金術とは

そもそも「錬金術」とは何なのでしょうか。古代ギリシャのアリストテレスの説では、地上の万物は「火」「気(空気・風)」「水」「土」の四大元素で構成されていると考えられていました。よくアニメなどに登場する魔法には4つの属性があるとされますが、まさにこの四大元素から来ているのですね。

地上にある物質、特に「卑金属」といわれる鉛やすずなど、金や銀、プラチナといった「貴金属」以外の金属から、四大元素の配合を変化させることによって金を作り出そうとしたのが、錬金術の基本的な考え方です。

錬金術は古代エジプトのアレクサンドリアから始まり、やがてアラビア世界に伝わります。このイスラム錬金術が、12世紀にはヨーロッパに伝わって盛んに研究されるようになり、14世紀から始まるルネサンスの時代に隆盛を迎えます。

 

生命を蘇らせようとした錬金術と賢者の石

錬金術の目的は直接的には金を作り出すことですが、究極には「賢者の石」を創造することにあります。
賢者の石といえば、「ハリー・ポッターシリーズ」の第1巻が『ハリー・ポッターと賢者の石』でしたので、ご存知の方が多いかも知れません。

そもそもは鉛などの卑金属を金に変えるために用いられる触媒となるもので、錬金術では「至高の物質」と言われ、金を作り出すばかりでなく傷や病も即座に癒し、薬として飲めば不老不死を得ることができるとされていました。ゲームなどでもアイテムとしてよく出て来る、傷や病を治す万能薬「エリクサー」とは、まさにこの賢者の石ことだとも考えられています。

つまり賢者の石とは人間の生命を左右し、それ以上に生命を蘇らせる物質であり、この錬金術の人間の手で生命を造り出そうという究極の考え方が、ヴィクター・フランケンシュタインが怪物を造るベースとなっていたのでした。

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