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女性の想いは鬼にも蛇にもなる…「道成寺」安珍と清姫の伝説

蛇
 
能の演目の三鬼女のひとつ「道成寺」は、有名な「安珍と清姫」の伝説を題材にしたお話です。
この伝説の主人公である清姫がとても恐ろしいというかユニークなのは、清姫が鬼女であると同時に蛇の化身でもあるということでしょうか。
江戸時代の妖怪画の描き手で知られる鳥山石燕の「今昔百鬼拾遺」でも清姫は、身体は蛇で顔と頭は長い髪のなかに角を生やした鬼の姿で描かれています。

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男の嘘を赦さない女の執念が鬼を生みだす!?

安珍と清姫の伝説はこのようなお話です。

昔、奥州の白河に安珍という名の若い山伏がいましたが、彼は毎年、紀州(和歌山県)の熊野権現に参詣していました。彼がいつも宿としたのは真砂庄司清重という人の家で、その家には清姫という美しい娘がいました。
清姫が幼い頃、安珍は戯れに奥州に連れて行こうなどと言っていましたが、清姫が13歳ぐらいになったときに安珍が例年のように庄司の家に泊まると、夜に清姫が枕元に来て妻になりたいと迫ります。安珍は仏に仕える身として困ってしまいますが、「熊野権現に詣でたあとまた戻ってきます」とその場をおさめます。
しかし安珍は戻ってきませんでした。嘘をつかれたと思った清姫は安珍を必死で追いかけますが、血走った目で髪を振り乱すその姿はやがて鬼女のようになっていきます。
やがて安珍に追いついた清姫は、もうまさに鬼女そのものでした。驚いた安珍は船頭に頼み込んで船に乗り日高川を渡ると、裏切られて怒りに燃えた清姫は大蛇の姿となって川を泳いで渡ります。
安珍はなんとか道成寺まで辿り着き、匿ってくれと頼み込みます。寺の僧たちは鐘を降ろしてその中に安珍を隠しますが、大蛇の鬼女となった清姫は道成寺のなかを探しまわり、やがて降ろされた鐘の下に安珍のわらじのひもが挟まっているのを見つけてしまいました。
清姫は蛇の身体で鐘を巻き付け、口から火を吐き出し、鐘はその炎に包まれます。
やがて清姫の大蛇は鐘から離れると、血の涙を滴らせ去って行きました。あとには焼けた鐘と燃え尽きた安珍の亡がらが残ったのでした。

 

能の道成寺は、清姫伝説の後日譚

能の演目である「道成寺」のお話は、この安珍と清姫の伝説の後日譚となっています。

道成寺では、焼けてしまった鐘が再興され、その供養が行われることになりました。道成寺の住持は、訳あって女性が来ても絶対に寺に入れてはいけないという触れを出しますが、ひとりの白拍子(しらびょうし)の女がやってきて供養の舞いを行いたいと寺男に頼み込み、寺の中に入り込んでしまいます。
女は舞いを踊りながら鐘に近づき、ついには鐘を落としてその中に入ってしまいました。
これを聞いた住持は、昔この寺で起きた安珍と清姫の恐ろしい物語を語り始めました。鬼女となった清姫の執念がまだ残っていると感じた僧たちは祈祷し、鐘を引き上げますが、鐘の中からは蛇の身体に変身した鬼女が現れます。
鬼女と僧たちの争いが起こりますが蛇の鬼女は鐘を焼くことはできず、その炎で自らの身を焼いてしまい、やがて日高川の底深くに消え去って行きました。

この能の演目になった後日譚でも、男の嘘に騙された鬼女の執念や怨念が消えること無く残り、それが新しく再興された鐘にも取り憑いていたという怖いお話になっているのです。

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