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疑似英雄詩「髪盗人」で守護精霊となったシルフ、エアリエル

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「四大精霊」ひとつとしての空気と風の精霊「シルフ(シルフィード)」は、16世紀に錬金術師で神秘思想家のパラケルススによって命名されました。

それからおよそ170年後の18世紀に、イギリスの詩人アレキサンダー・ポープはシルフを登場させた「髪盗人(かみぬすびと)」(初版1712年)という疑似英雄詩(古典の英雄を模したパロディ詩)を発表しました。この作品のなかでポープは、シルフがどんな精霊かを描いています。

ちなみにアレキサンダー・ポープは、その名句がシェイクスピアについでしばしば引用される古典主義詩人であり、また自身が編者として「シェイクスピア全集」を刊行しています。

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身近な実話を題材に描かれた「髪盗人」

「髪盗人」は、アレキサンダー・ポープの友人たちで社交会の花形である人びとにまつわる実話に基づいて創作されました。

カトリック貴族の一門に属していたアラベラ・ファーマーには、同じくカトリック貴族のペトレ卿という求婚者がいました。ある日ペトレ卿は戯れにアラベラ・ファーマーの髪の房を断りもなく斬り落とし、それがもとで両家の対立にまで発展してしまいました。

アレキサンダー・ポープは友人の依頼を受けて、この両家の対立とその原因をつくった2人を笑い飛ばすために「髪盗人」を書きました。

この作品のなかで空気と風の精霊シルフは、アラベラをモデルにした乙女の守護精霊として描かれています。

 

令嬢の髪の房を守ろうと奮闘するシルフのエアリエル

空気と風の精霊シルフのエアリエルは、貴族の令嬢ベリンダの守護精霊でした。エアリエルという名前は、シェイクスピアの戯曲「テンペスト」に登場する空気と風の精霊エアリエルからつけられており、シルフとエアリエルは同一の精霊とされています。

ある日エアリエルは、ベリンダの運命の星に不吉な陰を見つけ、夢の中でベリンダに知らせます。しかしベリンダは、エアリエルからの警告も忘れ川遊びに興じます。エアリエルが見た不吉な陰とは、ベリンダの美しい巻き髪が切られてしまうというもので、エアリエルは空気と風の精霊の一族を呼び寄せベリンダの髪を守ろうとします。しかしシルフたちの抵抗もむなしくベリンダの髪の房は切り取られ、ベリンダに思いを寄せる貴族の青年のものになってしまいました。

この騒ぎを見ていた土の精霊で悪霊のウンブリエルは、人間界に混乱を巻き起こす絶好の機会と地下世界に棲む憂鬱の女王に知らせ、不和の種が詰まった大袋を女王から貰い受けて人間界にまき散らしました。これによって起こった人びとの不和と争いのなかで、ベリンダの髪の房は天に昇り、地上からは永久に失われてしまったということです。

 

作者のポープが描いたシルフと精霊たち

ちなみに太陽系の惑星である天王星の衛星のうち、初めに発見された2つの名前はシェイクスピアの「真夏の夜の夢」に登場する妖精王オベロンと女王ティターニア。次に発見された2つはエアリアルと悪霊のウンブリエルの名前がつけられています。

さて、「髪盗人」で主人公の令嬢の守護精霊となっていたシルフですが、貴族の男性がベリンダの髪の房を切ろうとハサミを広げたときにそれを止めようとして、自分の身体を真っ二つにされてしまいます。しかしシルフは空気のエレメント(元素)でできているので、再び元どおりにくっついて事なきを得ます。

このシルフという精霊を作者のアレキサンダー・ポープは、気難しく虚栄心の強い女性が死後になるのだと説明しているそうです。また心優しい女性が死ぬと水の精霊ウンディーネに、情熱的な女性は火の精霊サラマンダーに、真面目ぶって淑女のように振る舞う女性は死後に落ちぶれて土の精霊ノーム(グノーム)になるとしました。ウンディーネやサラマンダーはなんとなくわかりますが、シルフやノームになる理由はどうしてでしょうか。

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