「リトル・マーメイド」人魚姫と空気と風の精霊との関係とは
別の記事で空気と風の精霊である「シルフ(シルフィード)」と、シルフと同一視されていてその源流とも思われる「エアリエル」について書きました。その続きというかおまけの話。
「エアリエル(Ariel)」の英語のつづりを見てわかるように、その読みは「エリエール」とか「アリエル」と発音します。アリエルと言えば、よく西欧圏で男女の名前としてつけられますが、アニメ映画「リトル・マーメイド」の主人公の名前もアリエルで有名ですね。
この「リトル・マーメイド」の物語の原作はもちろん、アンデルセンの『人魚姫』。じつは原作の主人公の人魚には固有の名前はつけられておらず、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズがアニメ化する際にその名をつけました。それではなぜアリエルなのでしょうか、その理由は? ここからは推量なのですが。
空気と風の精霊となった人魚姫
アニメ映画では、アリエルは最後に父親で人魚の王のトリトンに人間の王子エリックとのことを認められ、人間にしてもらってエリックと結ばれるというハッピーエンディング。しかし原作の『人魚姫』では哀しい結末なのです。
魔女によって人間の姿になった人魚姫は、結局は王子の愛は得られず、海に身を投げて泡となります。そして夜明けの空の神々しい存在に導かれて、人魚姫は海の泡から空へと昇り空気と風の精霊になるのです。そして他の精霊たちとともに、死ぬことのない魂を得るために善行を積むための長い時を過ごすのでした。
つまり人魚姫は、悲恋の果てに自らの命を失い、空気と風の精霊エアリエルになったわけです。だから「リトル・マーメイド」の人魚姫の名前はアリエル。さて本当のところはどうでしょうか。
文学作品に登場し存在を知らしめた空気と風の精霊
空気と風の精霊シルフの名称は、「四大精霊」を提唱した16世紀のスイス出身の錬金術師であり医師、化学者あるいは神秘思想家のパラケルススが造ったもので、その源流であるエアリエルとともに近世ヨーロッパで知られるようになりました。
アンデルセンの『人魚姫』は19世紀初期の作品ですが、パラケルススの提唱以後、空気と風の精霊が登場する重要な2つの文学作品が生まれています。ひとつはシェイクスピアの戯曲「テンペスト」(1612年頃初演)で、もうひとつは同じくイギリスの詩人アレキサンダー・ポープによって書かれた疑似英雄詩(古典の英雄を模したパロディ詩)の「髪盗人」(1712年初版)という作品です。これらによって、空気と風の精霊は広くヨーロッパに知られることとなったようです。
それではこの2つの作品で空気と風の精霊がどのように描かれたかは、また別の記事であらためて紹介することにしましょう。