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土の中の小人~グリム童話の中に登場するグノームたち

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現代の様々な物語に登場する土と大地の精霊「グノーム(ノーム)」ですが、19世紀の初めにグリム兄弟が編纂したメルヘン集『グリム童話』にもグノームをテーマとした物語があります。

ドイツ語のメルヘンとは英語では「フェアリーテール(妖精物語)」と呼ばれ、その多くは民間に伝承されたおとぎ話や口承文芸で、日本語で使われる可愛さの意味も含んだメルヘンとは若干ニュアンスが違うかも知れません。『グリム童話』は本来のメルヘンが形作られた最初のもので、200話以上の物語はドイツの民話から集められています。

グノームの物語はその91番目、フランクフルトの北にあるドイツ北部のパーダーボルン地方の民話で、「土の中の小人」というタイトルがつけられています。

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王様のりんごをもぎ取って食べ、地中へ落ちた娘たち

むかし、3人の娘を持つ王様がいて、一本のりんごの木をとても大切にしていました。この木のりんごは収穫時期には血のように赤くなり、その実を誰にも取られたくない王様の願掛けによって、りんごをもぎ取ると地下に落ちるとされていました。

3人の娘たちはいつも実が落ちていないか見ていましたが、末の娘がどうしてもこのりんごが食べたくなり、大きな実をひとつもぎ取って姉たちと食べてしまいました。すると娘たちは地中深く落ちて行ってしまったのです。

王様は娘たちの姿が消えたのを悲しみ、探し出した者には娘のひとりを与えるというお触れを出します。そこで国じゅうの若者たちが探しに行きますが、ある3人の猟師の兄弟も探す旅に出ました。

 

消えた王様の娘たちを探す3兄弟のもとに現れたノーム

彼らは8日間旅をして大きな城に着きます。その城には誰もいないのに、ある部屋には温かいご馳走がテーブルに並んでいました。はじめは躊躇していましたが、ご馳走がいつまでも温かいままなので兄弟たちは揃って食事にありつき、この城に留まって暮らそうと相談します。そして3人でクジを引いてひとりが残り、あとの2人が王様の娘たちを探しに行くことにしました。

残ったのは長男でしたが、彼のところに小さなノームがやって来てパンをくれと言います。パンを渡そうとするとノームはそれを落とし、もうひとつ渡そうと長男が屈んだ隙にノームは棒で長男を殴ったのです。次の日に2番目の弟が残ると同じことが起こります。

その次の日は末の弟のハンスが残りますが、上の兄たちはハンスを嫌っていてノームのことを言いませんでした。何も知らないハンスのところへもノームがやって来ます。ノームは同じようにパンを落としますが、ハンスはノームに拾えと言い、ノームが怒り出すと捕まえてさんざんに殴りました。

するとノームは、放してくれれば王様の娘たちがいる場所を教える、と叫んだのです。

 

ノームに娘たちを救出する方法を教えられる

ノームは、自分たちの一族は地中に千人以上棲んでいると言います。もし一緒に来るならば王様の娘たちがいるところを教えると、深い井戸のところに案内しました。

しかしノームは、ハンスの兄たちがハンスを嫌っていることを知っていて、もし娘たちを救いたければハンスひとりで行かなければならないと言いました。兄たちは危険なことはしたくないので、大きな籠にハンスひとりがナイフと鐘を持って入り地中へ降りろと言うのです。そして地底には3つの部屋があり、それぞれの部屋に娘たちがいてドラゴンのシラミを取っているから、3匹のドラゴンの頭を斬り落として娘たちを救い出さなければならないということです。そう伝え終わるとノームは消えてしまいました。

 

ノームに教えられたとおりに王様の娘たちを助け出す

ハンスを嫌っている兄たちが帰って来て、同じようにノームに殴られたのかどうかを確かめると、ハンスは逆にノームを殴り王様の娘たちの居場所を聞き出したことを伝えます。兄たちはこれを聞いて腹が立ち、顔色が変わりました。

次の日、3人は地中に降りる井戸に行き誰が最初に降りるかのクジを引きます。最初を引いたのは長男でナイフと鐘を持って下に降ろす籠に座りますが、少し降りると鐘を鳴らして籠を引き上げさせました。次は2番目の兄で、彼も同じようにすぐに引き上げさせます。最後にハンスが座りますが、兄たちは底に着くまで籠を降ろしてしまいました。

ハンスは地底に降りるとドラゴンと娘たちがいる3つの部屋まで行き、最初の部屋では9つの首を持ったドラゴンの首を斬り落とし、次の部屋では5つの首のドラゴンを、最後の部屋では4つの首のドラゴンの首をそれぞれ斬り落として、娘たちを救い出しました。

 

兄たちに裏切られ、地底に取り残されたハンス

それから井戸の底に戻って鐘を大きく鳴らし、娘たちを順番に籠に乗せて地上へと引き上げさせます。最後に自分が乗ろうとしましたが、ノームが言った兄たちがハンスを嫌っているという言葉を思い出し、自分の替わりに大きな石を籠に乗せました。すると籠が半分ほど引き上げられたところで兄たちはロープを切り、石を乗せた籠は地底に落ちてしまいました。

兄たちはハンスが死んだものと思い、王様の娘たちを連れて帰り、3人を助けたのは自分たちだと言うように約束させました。そして王様に、褒美としてそれぞれが娘たちと結婚させてくれと言ったのでした。王様はその話を信じ、兄たちに娘を与えることにしてしまうのです。

 

ノームたちに助けられ地上へと戻る

一方、地底に取り残されたハンスは3つの部屋を歩き回り、壁に笛が掛かっているのを見つけます。壁から笛を取って試しに吹いてみると、ひとつの音を出すたびに小人のノームがひとり現れ、笛を吹き続けるとやがて部屋がいっぱいになるほどのノームが現れました。

ノームが御用は何ですかと聞くので、ハンスが地上に戻してくれと頼むと、ノームたちはハンスの髪の毛をそれぞれ1本ずつ掴んで地上まで飛んで行きます。

ハンスはすぐに王様の宮殿まで行くと、ちょうど兄たちと王様の娘たちの結婚式が行われるところでした。王様と娘たちのいる部屋に行くと、ハンスを見た娘たちは驚いて気を失ってしまいます。王様は理由がわからずハンスを牢に入れろと命じますが、正気を取り戻した娘たちはハンスを自由にしてくれと頼みます。

王様が理由を聞くと、それは話せない約束だと娘たちは言いますが、それならばストーブに向かって話せと王様は言って部屋を出て聞き耳を立てたのでした。そしてすべてを聞いた王様は、兄たちふたりを縛り首にし、ハンスには末の娘を与えたのでした。

 
「四大精霊」を定義したパラケルススは、土と大地の精霊グノームの性格として人間嫌いだが、心優しく誠実で純粋無垢な人間なら好み、充分な知識と富みを与えてくれるとしています。この『グリム童話』の物語に登場するグノーム(ノーム)は、まさにそんな小人だったのかも知れません。

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