最終戦争ラグナロクと北欧神話の主神オーディン
北欧神話の最終戦争であるラグナロクでは、神々と巨人族が数々の怪物(フェンリル狼や狂犬ガルム、火の巨人スルト、世界蛇ヨルムンガンド、怪蛇ニーズホッグなどが代表的な怪物達です)と共に死闘を演じ、最終的にはほぼ相打ちともいえる結末を迎えて、世界は一旦破滅してしまいます。
しかしその後、すべてが滅んだ海の中から、現代の人類の繁栄につながるような緑に覆われた大地が出現し、わずかによみがえった神々と共に、再び世界が構築されるというのが、北欧神話の大まかなストーリーです。
北欧神話は、ラグナロクを経て再構築された世界のことをそれほど詳しく綴ってはいないのですが、その北欧神話の主神ともいえる存在が、オーディンという神なのです。
戦争と死の神
オーディンは、北欧神話の中で、「戦争と死の神」、そして「詩文の神」として描かれています。
魔術を使うこともできて、なおかつ知識欲にも非常に貪欲なキャラクターとして伝えられていて、まさに神話の主役にふさわしい神であった、といえます。
またオーディンは、ひとつのところに長くとどまらなかったことから、「風の神」や「嵐の神」といった評価と異名も持っていたようです。
ゲルマン人がもっとも崇拝している神は、「メルクリウス」という神である、という説を、帝政期のローマ帝国の政治家であるコルネリウス・タキトゥスが「ゲルマーニア」という著書の中で語っているのですが、オーディンは、タキトゥスと並んで智慧にも策略にも長けた神としてゲルマン民族に伝承されており、ローマ歴における水曜日は、「メルクリウスの日」であると同時に、特にゲルマン民族の間では、「オーディンの日」ともいわれています。
隻眼の神
オーディンは、知識欲が非常に高いことで有名で、知識を得るためには自身の目や命をも差し出すことをいとわない神である、とされていて、そのため後年に伝えられている肖像画では、片目がない状態、つまり隻眼であるさまが描かれていることが多いようです。
北欧神話にユグドラシルという架空の木が登場するのですが、ユグドラシルの根元に沸いていたミーミルの泉の水を飲むと、知恵や魔術が授けられることから、オーディンはこの水を飲み、そのために隻眼になった、といわれています。
さらにオーディンは、そのユグドラシルの木で首を吊って、そのうえ自身が持っていたとされるグングニルという名の槍に突き刺された状態で、神である自分自身にその死を捧げた、とも伝えられています。いずれにせよオーディンは、尋常ではない知識欲と、いくぶん不条理なストーリーを持つ神として、北欧神話の主役に君臨しているのです。