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クラーケンを取り巻く物語と北欧の伝説サガ

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海の巨大怪物「クラーケン」は、北欧を中心とした船乗りたちの間で伝えられて来たと考えられています。クラーケンが広く知られるきっかけとなったのは、18世紀中頃に発表されたエーリク・ポントビダンの『ノルウェー博物誌』(1752年)以降とされていますが、それではそれ以前にはクラーケンを記したものはなかったのでしょうか。

じつは北欧の伝説や出来事、王の物語を題材とした「サガ」にクラーケンのもととなったと思われる海の怪物の伝説が登場するのです。

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アイスランドに伝わる北欧の物語、サガ

サガに語られる海の怪物を採り上げる前に、サガそのものについて簡単にご紹介しておくことにしましょう。

サガという用語は、現代では主にファンタジー作品などで「○○○サーガ」という名称がつけられるように、長編の壮大で叙事詩的な物語を表す場合に使われます。
もともとこのサガは、12世紀から13世紀の中世にアイスランドで書かれた様々な物語作品の総称で、「伝説のサガ」や「王のサガ」「アイスランド人のサガ」といったように、北欧に伝わる古代の伝説や王の伝記、出来事が語られています。
アイスランドは北大西洋に浮かぶ島国ですが、ノルウェーをはじめとした北欧のゲルマン人やアイルランド、スコットランドのケルト人などが移住して定住し、多くの北欧の伝説や物語が伝わったというわけです。

さてこのアイスランドのサガのなかに、伝説のサガである「ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ」という物語があります。

 

ファンタジー作品に大きな影響を与えた魔剣伝説のサガ

「ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ」というのは、話が少し横道に逸れてしまいますが、じつはあの『指輪物語』や『ホビットの冒険』などの作品を著したJ・R・R・トールキンが、その物語世界を構成する「中つ国」を構想するうえでインスピレーションを受けたサガとして有名です。まさに伝説の世界、魔法や英雄が活躍し戦う世界なのです。

「ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ」は、北欧神話の主神であるオーディンの血をひくというスヴァフルラーメという王が、2人のドワーフに命と引換えに鍛えさせた魔剣「ティルヴィング」を巡る物語。ドワーフというのは、ファンタジー好きの方ならよくご存知だと思いますが、人間よりも背丈の低い伝説の種族で、鍛冶や工芸に高い技術を持っているとされています。もちろんトールキンの物語や以降のファンタジー作品にも、妖精種族であるエルフとともによく登場します。

このドワーフが鍛えたティルヴィングという剣は、鉄でも容易に斬ることができ狙った獲物は外さないという剣で、さらに悪しき望みを三度までは叶えることができるのですが、同時に持ち主にも破滅をもたらすという呪いがかけられた魔剣なのでした。そしてこの魔剣は、最初の持ち主のスヴァフルラーメ王から始まり、常に戦いの勝利と破滅をもたらしながらその持ち主が変わり受け継がれて行くわけです。

 

魔剣を埋葬したオルヴァル・オッドルの物語とクラーケン

魔剣ティルヴィングは、スヴァフルラーメ王を破ったベルセルクのアングリームルの手に渡ります。ベルセルクとは英語で「バーサーカー」と言い、鬼神のような力を発揮する北欧伝説の狂戦士のことです。
さらに魔剣はアングリームルの息子のアンガンチュールのものとなり、そのアンガンチュールはスェーデンの英雄であるヒャールマルによって命を落とします。そして魔剣ティルヴィングはヒャールマルに同行していた友人のオルヴァル・オッドルによってアンガンチュールの亡骸とともに埋葬されてしまいます。

クラーケンとはだいぶ話が離れてしまいましたが、この魔剣ティルヴィングを埋葬したオルヴァル・オッドルを巡る物語のなかに、クラーケンの伝承のもとになったもののひとつと考えられている怪物が出て来るのです。それについては、また別の記事であらためてご紹介することにしましょう。

なお、埋葬された魔剣ティルヴィングはやがて掘り出され、それを巡る物語はまだまだ続いて行きます。

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