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フランケンシュタインの怪物に名前が与えられなかった理由

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メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタインの怪物』の主人公である怪物には、名前がありません。別の記事でも触れましたが、フランケンシュタインというのはあくまで怪物を造り出した科学者の名前であって、怪物自身には名前がないのです。

ところが後に映画化され(1931年)、この物語や怪物のイメージが広まって行くにつれ、いつの間にか怪物を造り出したヴィクター・フランケンシュタインの名字と怪物そのものが混同され、怪物の名前=フランケンシュタインという誤解が生じてしまったようです。

現在でもあの怪物の名前は?というと、「フランケン」とか呼ばれたりもします。
それではなぜ、この怪物には名前がないのでしょうか。その理由ははっきりとはしていないようなのですが、想像も含めて探ってみることにしましょう。

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名前に宿る言霊の力

アメリカ・カリフォルニア大学のチャールズ・キングという心理学者の研究では、ファーストネームで呼び合わないカップルの85%が5ヶ月以内に別れるのだそうです。それが本当だとすると、まだ相手とファーストネームで呼んでない人は、早く別れたくないのなら無理をしてでも下の名前で呼び合うようにしましょう。

しかしそれは、どうしてなのでしょうか。このことには、名前という言霊の力が影響しているという考え方があるのです。

日本でも古来よりそうなのですが、名前には言霊の力が宿っており、名前を呼ぶということはその相手との関係を深め、場合によっては相手を縛るという発想があります。例えば安倍晴明で有名な陰陽師の呪術でも、名前を用いた「呪(しゅ)」というものがありました。「呪(しゅ)」とは言葉であり、言葉に込められているのは言霊の力です。

言葉を誰かに投げかけるというのは、単に言いたいことを伝えコミュニケーションをとるという以上にその相手に言霊の力を投げかけることになり、また名前とはその存在そのものを言い表した言葉ですから、名前そのものに言霊の大きな力が集約されているというわけです。

そして名前の言霊は人間ばかりではなく、妖怪や怪物、あるいは物であっても固有の名前があれば存在します。

 

名前を呼んではいけないあの人

『ハリーポッター』の物語には、「名前を呼んではいけないあの人」というフレーズが出て来ます。映画でも有名になったので皆さんもよくご存知だと思いますが、「あの人」とは魔法界で最強最悪と怖れられるヴォルデモート卿という魔法使いです。

それではなぜ名前を呼んではいけないのか? それは、名前を口にすると保護魔法が破れ、転移魔法で死喰い人(デスイーター)たちがやって来て襲撃を受けるという、言霊の呪いが張り巡らされているからなのだそうです。つまり名前の言霊によってヴォルデモート卿とのつながりが生じ、襲われてしまうというわけです。

このように日本だけでなくヨーロッパにも、名前という強力な言霊の力の伝承があったのでしょう。

 

名前を授けられなかった中途半端な存在

『フランケンシュタインの怪物』の作者のメアリー・シェリーが、そのような言霊の力を踏まえていたのかどうかはわかりませんが、怪物には創造者であるヴィクター・フランケンシュタインによって名前がつけられず、その関係はすぐに切り離され、それによって怪物はヴィクターに大きな恨みを持つことになります。

また名前がないことによって怪物は、人間でもなく魔物でもない中途半端ではっきりとしない存在として、各地を彷徨うことになってしまいます。

旧約聖書の神は人間を生みだしたときにアダムという名前を授け、イヴという妻を与えました。しかし神ならぬ、言ってみれば偽物の創造者であるヴィクター・フランケンシュタインは、自分が造り出したものを怪物として怖れ、名前を授けず、怪物が求めた妻=女性の人造人間も造ろうとしますが、それによって怪物が明確な存在となることをさらに怖れて、完成させずに破壊してしまうのです。

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