ラグナロク…異なる綴りで変わる意味、日本で黄昏と訳された理由
「ラグナロク」のエピソードを含んでいるという、中世アイスランドの文献「エッダ」は、新エッダ・古エッダ・小エッダに大きく分類されています。
中でも新エッダは、中世アイスランドに成立した北欧神話を体現している文献としては、著者不明ながらゲルマン民族に伝わる散文作品群をまとめたサガという文献と並んで、非常に有名なものです。
サガのほうは現在では、フィクションを含めた、人間の一族や一家一門を描いた抒情詩的な物語全体を指すキーワードとして定着していて、いくつかの小説やゲームなどでキーワードの活用が見られます。
神々の運命と神々の黄昏
ラグナロクは、中世アイスランドの詩人であるスノッリ・ストゥルルソンが著した散文集『新エッダ』では、「Ragna rok(古ノルド語で、「神々の運命」という意味)」と綴られているのに対し、新エッダよりも数十年古い時代に作成されたとされる『古エッダ』では、「Ragnarokkr(「神々の黄昏」というニュアンス)」で記載されています。
綴りの違いによってややニュアンスが異なっているものの、「終末の日」を指していること自体は変わりなく、中世北欧の時代の人々が、同時代に当地に入ってきたキリスト教の影響を受けながら、芸術的な領域や宗教的な領域において「終末の日」、つまり宗教上の「神の終焉」をイメージした世界観を持っていたことがうかがえます。
日本では「神々の黄昏」として定着した理由
時代や文献によって大きく二通りの解釈がなされているラグナロクですが、こと日本においてはもっぱら古エッダのほうの解釈、つまり「Ragnarokkr=神々の黄昏」のほうの意味が定着しているようです。
これには背景があり、19世紀のドイツの作家であるヴィルヘルム・リヒャルト・ワーグナーが、古エッダのエピソードをモチーフとした歌劇である「ニーベルングの指環」を製作し、最終章のタイトルをドイツ語で「Gotterdammerung(ワーグナーがラグナロクをドイツ語に訳して解釈した結果生まれたタイトル)」と名付けて、さらに日本でもこの歌劇が浸透したことから、古エッダのほうの解釈である「神々の黄昏」で定着した、とのことです。
ちなみにワグナーは、作曲家や指揮者として有名なのですが、19世紀のヨーロッパ文化において、文化人としても中心的役割を担っていたようです。このことも、日本の解釈が今の形に落ち着いた、大きな要因であるのかもしれません。