ラグナロクに隠された北欧神話の成り立ちと歴史
13世紀前後に生まれたという北欧神話とその物語の中に登場するラグナロク。
ラグナロクとは「神々の黄昏」や「神々の運命」という意味を持っているのですが、これは不老不死の概念にも通じる「上限のない無限の存在である神」のイメージとは、ある意味逆の意味合いを持つ言葉のように思われます。
このキーワードの誕生した時期は、当時のスカンジナビア半島におけるキリスト教の存在や、布教されていた時期と重なっており、キーワードが相反する意味を持っているのと無縁ではないことを示しています。
北欧以外にはほとんど残っていない神話
実はスカンジナビア半島以外の北欧地域は、もう少し早い時期にキリスト教化が進んでいました。このことと、スカンジナビア半島だけに神話が伝承され続けていて、北欧神話という物語が相当に地域限定であることは注目に値します。
つまり、キリスト教の伝承よりも古い時期の伝承が、スカンジナビア半島周辺地域において北欧神話に集約され、当地以外に残っていた物語はほぼほぼキリスト教定着によって消滅、つまり聖書に統合された、ということが考えられます。
戦後の日本が相当にアメリカナイズされたことを思えば、当時におけるキリスト教の浸透度合いがどのようなものか、当地の文化や価値観がどのように変貌していったかは、想像に難くありません。
それでも残った北欧神話は、相当のパワーを秘めている、といわざるを得ません。
北欧神話はゲルマン民族の信仰の物語
このことから北欧神話は、キリスト教以前のゲルマンの価値観(ゲルマン・ペイガニズムと呼ばれ、キリスト教における一神教とはいわば真逆の価値観であり、多神教や自然崇拝がベースとなっています)が集約されたものであり、そこに登場するラグナロクも、ある意味キリスト教文脈とは逆、または全く違った価値観をもって解釈されるべきものである、と推測することができるものです。
しかし一方で、キリスト教伝来までの期間における北欧神話は口述による伝承が主であり、文字や書物に起こされた時期とキリスト教伝来と定着の時期とが奇妙な一致を見せています。
このことから北欧神話、そしてそのなかの象徴的な概念であるラグナロクは、キリスト教的な概念と相反する要素を持ちながら、どこか融合した結果に生まれたようなニュアンスをも含んでいるという、なんとも神秘的で混血的な側面を持っているといえそうです。
その後ラグナロクは、長い期間をかけて、さまざまな物語に派生していくのです。