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獣人戦士ベルセルクとウールヴヘジン…狼男の源流をたどる

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北欧神話の最高神であり戦争と死を司る神オーディンは、戦場で死を定める女神ワルキューレに命じて死んだ勇士たちの魂を生き返らせて死者の館であるヴァルハラに集め、「ベルセルク(熊の毛皮を被った者)」と「ウールヴヘジン(狼の毛皮を被った者)」という死をも厭わない戦士にしました。

ベルセルクたちはその身に熊の毛皮を被り、ウールヴヘジンは狼の毛皮を被って、まさに獣人の戦士となったわけですが、はたしてそれにはどういう意味があったのでしょうか。

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獣人へと変身しパワーを獲得する戦士

北欧の伝説には「アイギ・アインハマ(同じ皮膚を持たない者たち)」という言葉があり、それは人間が他の動物の肉体に入り込み、異なる外見を得てその乗り移った動物の本性を得る、という意味です。

他の動物に変身することを「アト・スキプタ・ハーマム」と言い、変身によってその動物が持つ特殊な力やもとの人間の何倍もの能力を獲得することができます。こうして動物の能力を得た者は「ハムラマ」と呼ばれました。つまり、自然の世界において人間とは弱い生き物であり、他の強い獣の力、人間にはない能力を持った動物の力を得ようとしたということなのでしょう。

それではどのように変身するのかというと、それには2つの方法がありました。ひとつは魔法の力によるものであり、もうひとつは動物の毛皮などで全身を覆うという方法だったのです。2つ目の方法による変身、それがすなわちオーディンの勇猛な戦士ベルセルクとウールヴヘジンというわけです。

 

獣人戦士はバーサーカー(狂戦士)となる

動物の毛皮を被り変身した戦士は、その目だけは人間のものでありながら、身体は獣人へと変身しました。その本性は獣のものとなり行動も獣化してしまいますが、人間の知性は失われることはありませんでした。しかし獣人となった戦士は鎧もつけずに、ウールヴヘジンであれば本物の狼のごとく荒々しく凶暴に戦い、自分の持つ盾にも噛み付くほどで、熊や牛を倒すほどの強さだったとされます。

ゲームやファンタジーの用語で「バーサク化する」というものがありますが、これは「バーサーカー(狂戦士)」という言葉から来ています。バーサク化とはつまり、戦いのなかで異常な興奮状態となり凶暴さが増し荒れ狂って戦うという意味で、この「バーサーカー(berserker)」はオーディンの戦士ベルセルクが語源となっているのです。

ベルセルクもウールヴヘジンも、戦場ではまさにバーサク化した凶暴な戦士になった、というわけです。

 

獣人への恐怖心

神話の世界から人間の歴史世界になり、北欧のノルウェーを統一した最初の王である美髪王ハーラル1世(850年頃より930年頃)は、親衛隊としてベルセルクまたはウールヴヘジンを従えていたと言われています。この親衛隊は狼や熊の毛皮を着た兵士で、その意味するところはオーディンの戦士と同じく、獣人としての力を獲得したいということだったのでしょう。

このベルセルクまたはウールヴヘジンの兵士のなかには、平時にも農民たちに戦いを挑む者たちがいました。というのは当時のノルウェーでは、戦いを挑まれてそれを拒む者は法の庇護にも値しない腰抜けであり、妻も財産も没収されて挑戦者に与えられる、という定めがあったからです。なんとも乱暴な法律ですが、そんなわけで狼の毛皮を着たウールヴヘジンの兵士が戦いを挑んだり戦いの訓練に人を殺したりするので、民間では獣の毛皮を身にまとった乱暴者への恐怖心が生まれていったのだと言われています。

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