朱雀の正体は鶏?朱雀のモデルを様々な角度から探る
四神の神獣のもととなった動物は?と言えば、「白虎」は虎で「玄武」は蛇が絡みついた亀、「青龍」は架空のものとはいえ龍。それぞれある程度はモデルが明確なのですが、「朱雀(すざく)」については架空の神鳥ということで、どうもどんな鳥がモデルになっているのかがはっきりとしません。
朱雀のイメージとなった鳥は実在する?
朱雀はもともとの中国では錦鶏(キンケイ)というキジ科の極彩色の鳥や孔雀、あるいは鷹や鷲、燕や白鳥など多種多様の鳥がイメージの原型になっているそうです。日本で最古の朱雀を描いたものと考えられている「キトラ古墳」の壁画では、どうも全体的には雉(キジ)のようにも見えます。はたして朱雀はどんな鳥を原型に想像された神鳥なのかを、また別の視点から探ってみたいと思います。
「朱雀」のという漢字の意味とは
具体的なモデルとなる鳥を探る前に、その名の「朱雀」という漢字をについて少し考えてみましょう。朱雀の「朱」は、赤色のうちの朱色のことです。それでは「雀」はというと、単純に1字だけで読めばスズメですから、朱色のスズメということになってしまいそうです。
雀という字の中の「隹」は、日本語では「ふるとり(古鳥)」という意味ですが、もともとは尾の短い太めの鳥のことを言います。これに「少」が付いて、小さい鳥の意味でスズメということになりました。
それでは朱雀は、赤い色をした尾の短い太めの小さな鳥ということなのでしょうか?
鳥のなかでも「隹」が付く字を持ったものには、ほかに「隼(ハヤブサ)」や「雉(キジ)」もいて、実は「隹」は鳥全体を表している字でもあります。「雀」も小型の鳥全般を表す字で、例えば「雲雀(ヒバリ)」など何かの文字と組み合わされて鳥の種類を表しますし、小型とは言えない「孔雀(クジャク)」にもこの「雀」がつくのです。
どうやら、少し朱雀に近づいて来たのかも知れません。朱雀のモデルが孔雀あるいは雉といった鳥をイメージした姿かたちのものなのか、さてどうでしょうか。
朱雀はニワトリと関係がある!?
民俗学者の吉野裕子氏は、「陰陽五行思想」からの「鶏(ニワトリ)」に関する興味深い考察をされました(「陰陽五行と日本の文化」)。それによると、鶏とは陰陽五行における5色の色を持った鳥なのだそうです。つまり鶏冠は赤、背から腹が黄、長い尾が黒と青、胸毛の一部が白ということです。
鶏は家畜になる以前は赤鶏という野生種で、その名の通り全体的には赤茶色がかったふっくらとした鳥ですが、身体のなかにこの5色を備えていました。赤・青(緑)・黄・白・黒の5色は万物の元素である火・木・土・金・水に対応し、それらすべてを備える鶏は万物の元素を有する生き物として崇拝の対象となったのではないか、ということです。
赤鶏は人間に飼いならされて家畜となりましたが、吉祥を表す十二支でも鶏だけが唯一の家畜であり、また朝方に鳴き日の出を告げる鳥として太陽崇拝とも結びつきました。そういえば5つの方角を神鳥が司るという「五方神鳥」では、日の出を告げる鳥は「鳳凰」でした。
5色それぞれの色を持った5種類の鳳凰がいるという考え方もあり、鳳凰には5色つまり万物の5元素が備わっているわけです。赤鶏から崇拝される鳥となった鶏、朱雀と同一視される鳳凰、そして朱雀というつながりはあるのでしょうか?
中国の民間伝承では、雄鶏は妖怪を食べる能力を持っていて妖怪は雄鶏を怖れているのだとか。そこで鶏の姿を描いた「窓花(窓などに貼る切り紙)」を正門や窓に貼り、「金鶏鎮宅」つまり鶏が家を鎮めることにより、家庭の平安と幸福を祈ったのだそうです。