物理学者アイザック・ニュートンにとっての錬金術
比較的最近、日本で注目された「STAP細胞事件」では、未知の科学というものが、専門家以外から見た場合に、実はゴシップ的な要素に変わりうることが、図らずも証明されました。
「物理学の巨人」と称されるアイザック・ニュートンと、錬金術の関連性を示す資料が発見された際にも、さすがに「万有引力の法則の信ぴょう性」という議論にはならなかったものの、ニュートンに対して多くの人々から「好奇の目」が向けられたことは、疑いようのないところです。
科学技術が進歩した現代ですらこのようなことが起こりうるのですから、中世ヨーロッパにおける科学者や物理学者についても、同様の評価が起こったとしても、何ら不思議ではありません。
ニュートンと錬金術の関係が伏せられた理由
長い期間、ニュートンと錬金術の関係が伏せられていた理由として、大きく二点をあげることができます。
ひとつは、親族や後継者などの彼の関係者が、「万有引力の法則」をはじめとしたニュートンの功績の信ぴょう性を保つために、錬金術という未だに実現されていないような、いわばファンタジーの領域の事象に関する文書を、意識的に発表してこなかったことがあります。
そしてもうひとつは、アイザック・ニュートン自身が、錬金術関連の論文や書類を、彼が活躍していた当時に、リアルタイムで公表しなかったことがあげられます。
1936年、ニュートンと錬金術を紐づける書類が発見されたあと、経済学者のケインズが収集した錬金術関連や神学関連の文書の数は、ニュートンがその生涯で著した全文書のなかでも、半分以上を占めるという膨大なものだった、とされています。
これらの文書に対して、「万有引力の法則」に代表される、物理学分野の著書は、数は錬金術関連や神学関連よりも圧倒的に少ないものの、比較的早い段階で、彼自身の手によってきちんと世に出されています。
この事実は、「物理学者としてのニュートンの優れた一面を示している」、といえるのではないでしょうか。ニュートンは、「真の科学者」だったのです。
「未知の領域」を「既知の領域」にして発表する
ニュートンが錬金術関連の著書を発表しなかった理由は、彼にとっての錬金術研究が途上であり、「未知の領域を、既知の領域に転嫁するところまで至らなかったため」であることが考えられます。
前述のSTAP細胞の論文撤回に見られるとおり、科学者や物理学者にとって、裏付け未了の事象を世に出すリスクは、計り知れないものであったことが推測できます。
ニュートンは、中世ヨーロッパの時代に、もっぱらオカルトや都市伝説レベルの評価しか得ることができていなかった錬金術という領域に対して、真剣に科学的な側面を付け加えようとしていたのかもしれません。