経済学者ケインズと物理学者ニュートンの共通点とは
「20世紀の最重要人物」のひとりといわれる、経済学者のジョン・メイナード・ケインズは、晩年コレクターとして、アイザック・ニュートンの錬金術関連の文書を収集していたことは、あまり知られていません。
これらの文書は、彼の死後、同じようにコレクターであったイスラエルのアブラハム・ヤフダを経由して、現在はイスラエルのヘブライ大学に保管されています(一部ケンブリッジ大学にも保管されている、とのことです)。
造幣局時代のニュートンの思想に注目?
ケインズは、なぜニュートンの錬金術研究に着目したのでしょうか。さまざまな識者によってもその理由が議論されていますが、そのひとつには、ニュートンが錬金術に没頭していた時期、「職業人として造幣局長官の職に就いていた」ことがあげられています。
またこの時期、物理学者として既に名を残していたニュートンは、まるで宗教関連の人物、いわば古代の預言者のような奇妙な言葉も残しています。
「2060年に人類が滅亡する」というものは、彼が遺した言葉のひとつなのですが、現在一般的に浸透しているニュートンの評価を考えると、代々の識者が「ニュートンと錬金術の関連を隠蔽しようとした」ことは、理解できるところではあります。
「理性の時代の最初に人ではなく、最後の魔術師である」
経済学に精通しているケインズが、ニュートンの錬金術関連の文書を収集しつつ、ニュートンを評した言葉として遺しているのが「ニュートンは、理性の時代の最初の人ではなく、最後の魔術師である」というものです。
ニュートン自身も、研究の成果は「子供が貝殻を見つけて喜んでいる程度のもの」であり、「依然として目の前には、真理の大海は発見されずに横たわっている」という言葉を遺し、ほとんど事実や真理が解明できなかったことを冷静に振り返っています。
両者の共通点として、ともにケンブリッジ大学出身であることのほかにも、冷静で謙虚、ひいては「不確実性を許容する世界観」を持っていたことがうかがえます。
かたや経済学、かたや物理学の世界で後世に名を残すケインズとニュートン、二人の共通項である錬金術は、一般にいわれているような「(一定の胡散臭さを持った)非科学的=オカルトの領域」だけではなく、簡単には「理解した、解明した」とは言わないような、好奇心や探求心の「その先」といったニュアンスも、持っているのかもしれません。
少なくともケインズもニュートンも、錬金術の本質をとらえるためのアプローチとして、多分に哲学的人間心理的な部分を重視していたことは、間違いなさそうです。