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八百比丘尼と人魚(2):江戸時代には知られていた人魚の効用

八百比丘尼

江戸時代の浮世草子・人形浄瑠璃の作者、井原西鶴の作品に「好色五人女」があります。この浮世草子は5人の女性の物語で、「お夏清十郎」や「八百屋お七」などをご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

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人魚の肉は定番の不老不死や不老長寿の薬?

この「好色五人女」の、「おまん源五兵衛」の物語である巻五「恋の山源五兵衛」の五「金銀も持あまって迷惑」のなかに、「人魚の塩引き」つまり塩漬けにした人魚の食べ物が出て来ます。また同じ西鶴の「西鶴織留」という作品の巻五の一「只は見せぬ仏の箱」にも、「三十にあまる年も、嫁入時のすがた今に残りて、〜中略〜此女、不老丸も呑まず、人魚も喰ねど」という描写があります。

 
「人魚を食べたわけでもないのに、いつまでも若い」という話ですが、このように江戸時代には、人魚の肉が不老不死や不老長寿の薬であるという認識が、すっかり定着していました。それは江戸時代の前の室町時代に「八百比丘尼(やおびくに)」伝説が全国に広まり、人魚の肉を食べると不老不死になるという話を人々が知っていたからなのです。

 

 

食べれば三千年生きられるという人魚の肉

同じく江戸時代の読本作家、曲亭馬琴の有名な長編作品「南総里見八犬伝」には、もちろん架空のストーリーの物語ではありますが、人魚の肉の効用が書かれています。
それによると、物語に登場する名刀「鉄切り(くろがねぎり)」を作った刀工の木瓜八(ぼけはち)が、

「わが家の五世前の祖先である、麻呂太郎平信之より伝わっている人魚の膏油が今もある」として、「もしも人魚の肉を食べたのであれば、三千年は生きられるのだが、惜しいけれど人魚の膏油では年齢を伸ばす効能はない。しかし、この油で灯火にすれば雨風であっても日月の光と同じように照らし、また身体に余すことなく塗れば、どんなに寒い時でも暖かく、また刀剣に塗れば鉄も斬ることができる」

と語っています。
つまり曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」によれば、人魚の肉を食べると人間は3000年生きられるのだそうです。

 

 

西洋と日本の人魚の出会い??

先にご紹介した井原西鶴の「武道伝来記」という武家物の浮世草子の作品には、人魚そのものをタイトルにした「命とらるる人魚の海」という作品があって、ここに出てくる人魚は上半身が美しい女性で、下半身は金色の鱗の魚、そしてなぜか匂いが強いというものです。この人魚を海上で目撃すると、船に乗っている人は泣き叫び失神してしまいます。

 
強い匂いはともかくとして、日本の伝統的な人魚とは違うヨーロッパの美しい人魚の姿であり、またギリシャ神話の人魚セイレーンのように歌は歌いませんが人間を惑わします。南蛮人が渡来したあとの時代に書かれた物語ですから、もしかしたら西洋の人魚の話が伝わったのかも知れません。ちなみに太宰治の短編小説「人魚の海」は、この「命とらるる人魚の海」を素材にした小説です。

 
また、鎖国となった江戸時代にオランダ商館からヨンストンという博物学者の「動物図譜」が日本にもたらされますが、その書物には人魚の項目があって人魚の骨には止血効果があると書かれているそうです。

 
このように江戸時代になると、人魚や人魚の肉、また膏油などの存在や効用が物語に語られるようになりました。中国や西洋からの情報もあったと思いますが、それらは八百比丘尼伝説から広まったことが大きく影響したのではないでしょうか。

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