ホムンクルス作成に関わった秘密結社・薔薇十字団とは?
16世紀頃のヨーロッパでは、錬金術が科学の領域としてさかんに研究されていました。現在でいうところのクローンや人造人間(=アンドロイド)に相当するというホムンクルスは、この時代を生きたパラケルススという人物によってのみ作られた、という伝承が残っています。
当時の医学は、解剖や触診などによる実践医学が主流だったのですが、パラケルススは反主流として、「人間と宇宙の関係をもって、生命の本質に迫る」といったアプローチをとっていた、といわれています。
そんな中、パラケルススのホモンクルス作成に深くかかわっていたという団体が、薔薇十字団です。
中世ヨーロッパの秘密結社
もともと医学的な分野での専門知識を有していたパラケルススは、次第に実践医学を批判するようになり、自然哲学や占星術、そして錬金術の方面に傾倒していきました。
今でこそ「医学=科学(とはいえそれは主に西洋医学について当てはまり、東洋医学の一部、たとえば漢方や心理学分野においては、現在も必ずしも科学的であるとは言えないところもあります)」という図式で語られていますが、医療科学の研究が現在ほど進んでいなかった中世においては、占星術や錬金術も、医療分野の追求アプローチの選択肢として、十分機能していたことでしょう。
また、こんにちにおいても、研究分野はある程度の経済力や人的バックアップがあってこそ進捗するものであり、単独での研究開発は難しかったことが容易に想像できます。そこでクローズアップされているのが、中世ヨーロッパにおいて秘密結社の伝説を持つという薔薇十字団の存在です。
薔薇十字団の存在
薔薇十字団の結成は、16世紀頃にまでさかのぼる、といわれていますが、ヨーロッパ全土で広く知られるようになったのは、17世紀以降である、とのことです。
薔薇十字団は、1614年当時のドイツで刊行されていた『全世界の普遍的かつ総体的改革』という、著書不明のいわば「怪文書」(原案は1610年頃から出回っていた、といわれています)ともいえる書物の中で初めてその存在が記されていて、ヨーロッパ中に広く知られる存在となります。
その後も『友愛団の信条』、『化学の結婚』という著書の中で、先に述べたパラケルススの主張寄りの「精神世界的なところをよりどころとする錬金術」と共に、薔薇十字団の存在がアピールされていた、といいます。
その後ドイツでは「三十年戦争」とよばれる宗教戦争が勃発し、その背後には薔薇十字団と、創始者とされるクリスチャン・ローゼンクロイツ(薔薇十字団という名称のもとになっていると思われます)が存在していた、といわれています。