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錬金術・賢者の石に対しての心理学者ユングの解釈

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「20世紀最大の知の巨人」との異名をとる、スイス出身の精神医学の祖、カール・グスタフ・ユングは、その偉大なる研究の中で、錬金術の本当の目的についての考察をおこなっています。錬金術は、不老不死や、鉄や銅を金銀に変換させることが目的ではなく、「賢者の石」を手に入れることを目的にしていたのではないか、というものです。

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無意識の探求と「賢者の石」

ユングは、当時の錬金術師たちのユニークな発想が、精神病患者が語る夢の数々と奇妙な一致を見せていることから、「深層心理の世界において、精神病患者と錬金術師は、無意識のレベルで共通項があるのではないか」、と考えました。錬金術師たちが後世に残した数々の突飛なイメージは、実は「医学的に魂を病んだとされる」人々の、深層心理の世界を顕在化したものではないか、という仮説を唱えたのです。

つまり錬金術とは、実は「無意識の世界を表層に顕在化させ、その先にある何らかを実現させるための人間の欲望そのものである」、という主張をおこないました。現代において、車の自動運転やAI(=人工知能)の可能性が取り沙汰されていますが、20世紀の段階で既に、ユングが錬金術を通して主張していた仮説であった、ということです。

 

錬金術は精神修行?

この説によると、錬金術という行為は「精神修行」であり、「物質的な目的よりも、むしろそこに至る過程が重要である」、とされています。

科学的な事実の立証は結果論であり、そこに至る過程こそが、「人間が生きていくうえで必ず起こる、無意識の世界の特殊な作用を説明するものであり、思考や心理を考察するうえでの、最も重要な要素である」、と考えました。

この説は、中世ヨーロッパの錬金術や、インドにおける神秘思想、さらに現在病気の一種とされている神経や脳の障害などに、一歩も二歩も踏み込む有効な学説でもあります。この考え方の根底には、「今を生きる人間の、アイデンティティ(存在価値)自体の創造」、といった、哲学的な意味での「人間の本質」が横たわっています。

現在においてもしばしば「資本主義的な成功」を「錬金術」と表現する場合がありますが、錬金術が「人間そのものの存在価値を問う行為=精神修行」であるとするならば、金儲けや物欲といった俗物的な考えや行為も、錬金術で説明できます。

ユングの主張は、「賢者の石」という抽象的で象徴的なゴールに対して、明確な説明を与えるものであり、また、人間の存在の本質そのものを説明するような、普遍的な概念でもあった、と考えられます。

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カテゴリ: その他

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