非科学的?「賢者の石」を求めて…錬金術とは何か
1997年にイギリスで執筆され、2001年には映画化もされたファンタジー小説、ハリー・ポッターシリーズの第一作『賢者の石』は、中世ヨーロッパで研究されていた錬金術の中で、その存在を追及されていた物質であり、そのルーツは同じく錬金術に関連する物質であるエリクサーにたどり着きます。
錬金術は、英語で「alchemy」と表記し、その語源はアラビア語の「Al kimiya」に由来する、といわれています。このことからも、錬金術の概念は、イスラム世界からやってきた、という評価をおこなう見方があります。
錬金術の語源は?
錬金術の本当の語源についての評価は、有識者や学者の間でも、現時点で完全には一致していません。こんにち一般的にいわれている錬金術とは、「卑金属(=化学的に金や銀ではない物質)から貴金属(=金や銀に代表される、一般的に高価な金属)を科学的に生成する概念」のことを指していますが、広義においては「金属加工に限らず、人間の肉体や魂が未完全であるという仮説に基づき、完全な状態に錬成する試み」をも含んでいます。
前者は科学(または化学)の領域ですが、後者は宗教や人間心理学の領域にも踏み込んでいます。このため、語源や由来についてもさまざまな解釈が存在し、「イスラム経由で中世ヨーロッパにもたらされた」という事象も、確証をもって取り扱える真実とはいいきれないところがあります。
錬金術の試みから発見された化学物質も
しかし、当時の錬金術の試みによって、今では現代科学の常識となっている硫酸や硝酸、塩酸といった実在の物質が、錬金術へのアプローチの中で発見されています。イギリスの思想家にして歴史学者であるフランシス・イェイツは、「中世ヨーロッパの錬金術が、17世紀以降の自然科学のベースとなっている」、といった主旨の発言をおこなっています。
12世紀頃の世界において、錬金術が盛んに研究されていた時代や、錬金術という概念そのもののアプローチは、その後の人間社会における自然科学の立証を含めた技術革新や、物質的な事実の積み上げには、必要不可欠なプロセスであった、といえそうです。
賢者の石が鍵になった?
化学的にも歴史的にも非常に重要な意味合いを持つ錬金術において、「非科学的な推論と科学的な事実の境界」となったもの、これこそが「賢者の石」の存在です。現代において「賢者の石」は、ハリー・ポッターシリーズに見られるように、「非科学的で、魔法の延長線上にある想像上の物質」と考えられていますが、錬金術というアプローチを大真面目に行っていた時期においては、「技術革新の可能性」そのものであったのです。