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古代丹後王国の浦島伝説3:亀に変身していたのは乙姫様?

浦島伝説

 

奈良時代にまとめられた「日本書紀」と「丹後国風土記」に、最古の記述がある浦島太郎伝説=浦の嶋子の伝説。その主人公は、日本書紀には丹波国与謝郡(後に丹後国になる)の筒川の人である「水江浦島子(みずのえうらしまこ)」と記され、丹後国風土記では与謝郡日置の筒川村(現在の伊根町筒川)の日下部首(くさかべおびと)という一族の先祖である「筒川嶋子(つつかわしまこ)」、またの名を「水江の浦の嶋子」と書かれていますから、どちらも同じ人物のことだと思われます。また日本書紀はとても短い記述なのですが、「この話は別の巻にある」と記されていて、その別の巻が丹後国風土記の物語と同じだという説もあります。
いずれにしろ同じ場所の同じ人物の物語だとすると、それは日本書紀にある雄略天皇22年、機械的に西暦に置き換えると古墳時代の478年のことだったのでしょうか。

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むかしむかしの時代・・・ところで「むかしむかし」っていつ?

話は少し変わりますが、おとぎ話や昔話の出だしによくある「むかしむかし、あるところに~」の「むかしむかし」とは、この5世紀後半とされる雄略天皇の時代のことだという説があります。
というのは、古代の人々の認識として雄略天皇の時代が時代の転換期で、日本書紀に書かれているように雄略天皇は皇位につく筈だった従兄弟の市辺押磐皇子(いちべのおしわのみこ)を殺し、その弟の御馬皇子(みまのみこ)を処刑するというクーデターによって天皇となり、新しい治世を始めたからなのだそうです。

 
ですから、奈良時代にまとめられた「万葉集」は雄略天皇の歌で始まり、平安時代の古代氏族の名鑑である「新撰姓氏録」では、多くの氏族の氏祖伝承が雄略天皇の時代に始まっているということです。
つまり浦島太郎物語の「むかしむかし」も、雄略天皇22年のことということになったのでしょうか。

 

 

浦島太郎の物語と浦嶋子伝説の違い

丹後国風土記の浦島伝説では、現在よく知られている浦島太郎の物語と異なる点がたくさんあります。
いくつか挙げると、まず浦嶋子は亀を助けたお礼に龍宮城に行くのではなく、亀から美しい女性へと変身した乙女が初めから浦嶋子に会うために、釣りに出た彼の舟に釣られるためにやって来るのです。そして連れて行かれるのは、龍宮城ではなく常世の国の宮殿。ただしここは海神(わたつみ)の宮殿で、後には海神は龍王と考えられようになり、龍王の棲む龍宮となります。

 
また浦島太郎の物語では、太郎が助けた亀は太郎を龍宮へ運ぶ役目ですが、浦嶋子の伝説では浦嶋子と出会う亀が海神の娘の亀姫、つまり乙姫様その人です。
そのほか細かい部分でもかなり違う点がありますが、物語のクライマックスで故郷に帰り300年が経過していることを知った浦嶋子が、狼狽し取り乱して開けた玉櫛笥(たまくしげ)から流れ出たのは白い煙ではなく芳しい香りで、その香りは天へと立ち上って行きました。この芳しい香りとは、もしかしたら浦嶋子を常世の国の時間に留める亀姫の想いだったのかも知れません。

 

 

現世と常世の国をつなぐ哀しいラブストーリー

こうして浦島太郎のおとぎ話との違いを見ると、浦嶋子の伝説はいじめられた亀を助けるという善行をした太郎が龍宮城で歓待されるというお話ではなく、初めから嶋子を見初めていた亀姫が嶋子に会いに行き、連れ帰って結ばれるという物語なのです。そして、現世とは時間の流れが異なる常世の国での幸せから一転し、永遠に一緒に居たいという亀姫の気持ちに反して現世に戻った嶋子がその現実に直面して取り乱してしまい、亀姫と自分の若さという2つのものを一瞬にして失ってしまうという、哀しい結末の物語でもあります。
そこには現実の世界と異界とをつなぎながら、また現世には永遠というものがあり得ないという、古代の哀しいラブストーリーがあったのでした。

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