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八岐大蛇は巨大な蛇?それとも龍?須佐之男命とオロチの伝説を考察する

龍 竜
 
『古事記』と『日本書記』に語られる「須佐之男命(すさのおのみこと)」と「八岐大蛇(やまたのおろち)」の伝説はとても有名な物語ですが、それではこの八岐大蛇、果たして巨大な蛇なのか、それとも日本に初めて登場した龍なのでしょうか。これについては現在も諸説紛々です。

そもそも8つの頭と8つの尾を持ち、8つの峰と8つの谷にまたがるという想像を超えた巨大な怪物ですから、単に大きな蛇だと言う訳にはいきません。

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インドには「竜蛇神」の「ナーガ」という神がいると別の記事でご紹介しましたが、ナーガは7つの頭を持ったコブラの姿で描かれることも多く、八岐大蛇とのつながりも感じられます。また中国南方の蛇信仰から生まれた龍では、蛇が500年生きると「蛟(みずち)」または「蛟龍(こうりゅう)」と呼ばれるものになり、1000年生きると龍になると言われています。

このように、蛇と龍はまったく違うものとしてしまうのはなかなか難しいのですが、八岐大蛇の場合はどうなのでしょうか。

 

古事記と日本書紀の八岐大蛇

これまで「ヤマタノオロチ」を「八岐大蛇」と書いてきましたが、この漢字は実は日本書紀に記されたものです。一方、古事記では「八俣遠呂智」と表記しています。

日本書紀が漢文体で書かれた朝廷による正規の歴史書で、古事記は古い伝承に基づいて変体漢文で書かれた物語性の高い歴史書とされていますから、その違いもあるのかも知れませんが、古事記ではオロチを「大蛇」ではなく「遠呂智」と日本語の音のまま記しているように思われます。

それでは「オロチ」とは何なのでしょうか?

 

「オロチ」の語源

辞書的に調べるとオロチは「とても大きなヘビの意味」ということになってしまうのでしょうが、語源由来としては「長い尾の神」ということなのだそうです。つまり、オロチの「お」は「尾」であり、「ろ」は助詞で「?の」ということ、そして「ち」は「霊力」や「霊的な力を持つもの」、つまり神か神に等しい存在を表しています。

ですから、蛇が龍に成長する途中の「蛟(みずち)」も「水」の「霊的な力を持つもの」ということになり、日本では「水神」もしくは水神が使役する妖怪なども「みずち」と呼ばれています。ただ、蛇神もそもそも水の神ですし「長い尾を持つ神」と言えますから、ヤマタノオロチが、蛇から龍になる途中の「みずち」に近いものなのか、それとも龍そのものなのかははっきりとしません。少なくとも「とても大きなヘビの怪物」ということではなさそうなのはわかります。

 

須佐之男命と八岐大蛇から見えること

視点を変えて、八岐大蛇を倒す須佐之男命に注目してみましょう。

須佐之男命も実は複雑な神様です。日本列島を創った「伊邪那岐命(いざなぎのみこと)」の息子であり、高天原を治める最高神である「天照大神(あまてらすおおみかみ)」の弟ですから「天津神(あまつかみ)」(高天原の神)なのでしょうが、八岐大蛇を退治して「国津神(くにつかみ)」(土着の神)の孫娘の「櫛名田比売(くしなだひめ)」を妻にし、天孫降臨の以前に出雲国を建国して治めます。娘の「須世理比売(すせりひめ)」と結ばれた「大国主命(おおくにぬしのみこと)」は国津神の代表ですし、須佐之男命自身も出雲の神の祖神とされています。

またその性格も、わがままな神、乱暴な神でありながら、国津神の娘を救う英雄であり、日本初の和歌を詠んだとされ、出雲を平和に治める王でもあります。これらの多面的な性格は、古代の様々な神の性格が合わされてできたものと解釈されていますが、後にはインド発祥の仏教の神である「牛頭天王(ごずてんのう)」とも同一視されました。

牛頭天王は名前の通り牛の頭を持った神ですが、仮に須佐之男命=牛頭天王として、八岐大蛇=龍になる途中の蛟または龍とすると、中国南部の蜀郡の伝説である「蜀郡の守の李氷が蛟を退治する話」や、メソポタミアのバビロニア神話にある「太陽の牛という意味の名を持つバビロンのマルドゥク神が、シュメールの竜蛇であるムシュフシュを従える話」に近く思われる、とても興味深いですよね。中国とメソポタミアのそれぞれの伝説は別の記事でご紹介していますから、そちらをぜひ読んでみて下さい。

八岐大蛇については他にも色々な話や解釈がありますが、それはまた別の記事でご紹介できればと思います。

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