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鳥山石燕の妖怪画集にも描かれた天狗の怪異 天狗礫・天狗火

天狗
 
江戸時代にはご存知のとおり、江戸の町を中心に町人文化が華開きました。そのなかでも意外に人気があったのが妖怪。粋でいなせな江戸文化のなかに、怖いもの見たさの妖怪ブームが起こりました。

そんな妖怪人気を象徴するのが江戸時代後期に活躍した画家の鳥山石燕で、彼が描いた『図画百鬼夜行』などの妖怪画集は、現代まで続く妖怪のイメージづくりに大きな影響を与えています。

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鳥山石燕の妖怪画集にはもちろん天狗をテーマとした絵も描かれていて、その3枚の絵から天狗が起こす怪異を知ることができます。

 

天狗礫

鳥山石燕が出した二番目の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』には、「天狗礫(つぶて)」という怪異を描いた絵があります。

天狗礫とは、山の中で突然にどこからともなく投げられたかのように、石や砂利が飛んでくる怪異。これは天狗が素行の悪い人間に警告を与え、悔い改めさせるために石を投げつけていると考えられていました。石燕の絵には「深山幽谷の中にて一陣の魔風おこり、山鳴り谷こたえて、大石を飛ばすことあり」と書かれていますから、砂利や小石どころか大きな石が飛んでくることもあるのですね。

天狗礫は日本各地にその伝承が遺っていて、山の中だけでなく江戸の町中でも起こりました。ある日、麹町で卵を商いする商家に20個から多いときには60個もの小石が、どこからともなく飛んで来たそうです。しかしこの石は人の体に当たっても、その感触はあるものの傷になることはなかったと言います。この家にはしばらく天狗礫が続き見物人が出る騒ぎとなりましたが、町奉行所の同心が見回りに出るとやがて礫の数は減って行き、いつしか終わったということです。なぜこの卵屋さんにだけ天狗礫が起きたのでしょうか、不思議な話です。

 

天狗火、松明丸

石燕の四番目の画集『百器徒然袋』には、「松明丸(たいまつまる)」という妖怪画があります。
これは天狗が起こす怪異のひとつである「天狗火」の一種で、天狗火とは主に水辺などに現れる赤みを帯びた妖しい火。川を活動場所とする「川天狗」が夜に山から川に降りて来て、魚を捕まえるときに起こる怪異とも言われています。
松明丸は石燕の解説によると、深山幽谷の中で「天狗つぶての石より出る光」とあって、天狗が投げた石から光が出て発光するもののようです。ただし描かれた松明丸の絵は、火焔を出す石を両手に持って羽を広げ空を飛ぶ、怪鳥のような妖怪の姿をしています。

 

石燕の天狗

鳥山石燕は最初の妖怪画集である『図画百鬼夜行』に、そのものずばり「天狗」と題した絵を描いています。
しかしこの天狗、一般的な長い鼻があって山伏装束の背中に羽を持った大天狗=鼻高天狗の姿ではなく、烏天狗と思われるのですが何の装束も身にまとわない、まさに妖しい鳥の妖怪として描かれているのです。

タイトルに「天狗」とあるだけで、石燕の解説文が何も添えられていないので、どんな天狗なのか何をイメージして描いたのかは分かりません。おそらくは烏天狗をイメージしながらも、石燕らしく妖しげで恐ろしげな妖怪として天狗を捉え、描いたのではないでしょうか。

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