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女性の鬼は本当に怖い!情念に塗れる六条御息所の物語と鬼女の伝説

平安時代 姫 女性
 
日本の伝説に登場する鬼というと、桃太郎の鬼退治の鬼や大江山の酒呑童子など、大柄で恐ろしくいかつい姿をした男性の鬼というのが一般的ではないでしょうか。現代でも例えば節分の鬼のイメージも、赤や青色のがっしりとした身体、頭に角を生やし裸に虎のシマ柄パンツということになります。

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しかし平安時代のころになると、女性の鬼である「鬼女」や「鬼婆」が出てきます。若い女性の鬼を鬼女といい、老婆の姿をした鬼を鬼婆と区別するのだそうですが、この鬼女や鬼婆というのは、もとは人間の女性だったものがその心の内の怨念や情念によって鬼となってしまった、というのがほとんどでそこが男性の鬼と異なるところなのです。

そういう理由からか、鬼のなかでも鬼女や鬼婆はどうも他の鬼よりも恐ろしい。場合によってはユーモラスな姿で描かれる鬼ですが、鬼女や鬼婆は本当に怖い鬼として描かれることが多いと思います。

 

能に描かれた三鬼女伝説

さて、全国には鬼女や鬼婆のさまざまな伝説がありますが、特に有名なのが能の演目で三鬼女とされる「葵上」「黒塚」「道成寺」の鬼女です。

「葵上」は平安時代の中頃に書かれた「源氏物語」の「葵」の巻から題材を取り、能楽の大成者である世阿弥が改作したものと言われている演目。
「黒塚」は別名「安達原」で、いわゆる「安達ヶ原の鬼婆伝説」から題材を取った演目で作者は不詳、浄瑠璃や歌舞伎では「奥州安達原」という演目で知られています。
「道成寺」は、和歌山県の道成寺に伝わる「安珍清姫伝説」がもととなった演目です。こちらも浄瑠璃や歌舞伎の演目となり、多くの人に知られるようになりました。

 

心の内の情念が生きながら鬼となった六条御息所

この能の三鬼女から「葵上」をご紹介してみましょう。
題材になった源氏物語の「葵」の巻はよく知られたお話だと思いますが、こんなお話です。

光源氏と恋愛関係にあった六条御息所は、源氏を独占したいと想いながら彼よりも年上という引け目もあり、また身分が高い女性であるのでいつもその本心を押し殺しています。
ある日、賀茂祭の斎院御禊見物の折に、光源氏の正妻で妊娠中の葵の上の牛車と鉢合わせして場所争いとなり、葵の上の下人から屈辱的な仕打ちを受けてしまいます。それが発端で六条御息所の嫉妬や怨念の心は鬼となり、生霊(いきりょう)となって葵の上に取り憑くのです。
生霊に取り憑かれ葵の上は重体となってしまいました。照日という巫女が梓弓(あずさゆみ)の音で霊を呼び出す「梓の法」で物の怪の正体を確かめると、そこに現れたのは六条御息所の生霊です。生霊は葵の上を見つけると、「後妻打ち(うわなりうち)」という妻が若い妾を打つやり方で葵の上の魂を抜き取ろうとします。
家臣たちは驚きおののき、強い法力を持った横川の小聖という修験者を呼び出します。横川の小聖が祈祷を始めると、六条御息所の生霊は強い嫉妬と怨念から鬼女となり襲いかかってきます。激しい戦いが続きますが、最後に鬼女は折り伏せられ消え去って行くのでした。

まさに心の中の押し殺した情念の鬼が、高貴な女性を鬼女と変えてしまった怖い物語なのです。

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