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鬼瓦とは?屋根の上で家を守る鬼たち、鬼瓦を生み出す職人「鬼師」

鬼伝説

 

現代の家屋ではあまり見られなくなりましたが、神社仏閣や古い家屋の屋根の四隅(棟端、むねはし)には「鬼瓦」という鬼の顔を持った飾り瓦が据えられていて、屋根の上から四方に睨みをきかせています。
鬼瓦は魔除け厄よけとしてその家や家屋から悪魔を追い払い、家内安全・無病息災を願い災いが入って来ないようにするためのものとして据えられています。
節分の豆まきですと「福は内、鬼は外」と、鬼は家屋から外へ追い払われてしまう存在なのに、鬼瓦ではどうして鬼が屋根の上にいて、外部に対して睨みをきかせているのでしょうか。

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鬼瓦は古代ローマ時代のオリエントの都市から伝わった

日本で鬼瓦が神社仏閣などの瓦屋根の建物に広く設置され始めたのは、奈良時代の頃からだとされています。瓦自体は、日本書紀によりますと588年に大陸より4人の瓦博士がやって来て、飛鳥寺の建立をきっかけに瓦の技術をもたらしたということです。
創建当時の飛鳥寺の建物は現在ではありませんが、発掘された瓦のなかには「鬼面文鬼瓦」という鬼瓦が遺っていて、瓦屋根の伝来と同時に鬼瓦も伝わって来ていることが偲ばれます。ただしその顔は後世の鬼の顔ではなく、なんとなくシルクロードや古代オリエントの香りがする不思議な妖怪の顔といった印象です。

 
鬼瓦のルーツは、実はまさしく古代オリエントにあるそうで、定説としては古代ローマ時代に紀元前1世紀から3世紀頃まで、現在のシリアの地に栄えた都市国家「パルミラ」が発祥の地と言われています。パルミラでは建物の入口に魔除けの象徴であるメドゥーサの彫刻を施す文化があり、それがシルクロードを伝わって中国から日本へと辿り着いたというわけです。

 
ちなみにメドゥーサは、見たものを石に変えてしまうという力を持ったギリシャ神話に登場する怪物。そこから、睨みをきかせ建物を守る魔除けとなったのでしょうか。
また、建物の入口に配される魔除けとしては、沖縄の伝説の獣(獅子)であるシーサーにもつながってくるかも知れません。

 

鬼瓦となった鬼の役割は

鬼瓦が古代オリエント都市を発祥の地として、シルクロードを経て日本へと伝わって来たのはわかりました。それではメドゥーサから始まった鬼瓦が、日本ではなぜ鬼となったのでしょう。
これには、日本の鬼が持っている多面的な性格が影響しているのではないでしょうか。
日本の鬼は、人をさらって食べたり乱暴を働く恐ろしいものではありますが、一方で役小角の弟子、家来であった前鬼・後鬼のように、大きな力のある神聖なものに従い、それを先導する役目を果たします。また、なまはげのように外からやってきて災いや病気を払い、その家に福をもたらす存在でもあります。

 
メドゥーサという恐ろしい怪物によって睨みをきかせるという役割から始まった鬼瓦は、日本では恐ろしい存在の代表である鬼が神聖な場所である屋根の棟端から睨みをきかせ、その家を守ってもらいながら同時に外から福を呼び込む、という願いを込めたものへとなっていったのだと思われます。

 

 

現代に鬼瓦を生みだす「鬼師」という職人

日本にある職業の数は、いくつぐらいかご存知でしょうか。
大正9年の国勢調査では、全国民から申告のあった職業の数は約35,000種類もあったそうです。現在の厚生労働省の改訂「日本標準職業分類」では、それまでの2,167種から892種と職業の項目数が大幅に減少しました。これは職業の種類が項目上整理されているということもあるのでしょうが、かつてあった職業自体が無くなって来ているというのも、かなりの数であるのではないかと思われます。
そんな日本の職業のなかで、「鬼」の名称を持つ職業に携わっている方が現在もいらっしゃいます。それが鬼瓦をつくる職人「鬼師」です。

 

 

鬼瓦は職人の技から生みだされる

神社仏閣などの伝統建築はともかく、現代の一般的な家屋では伝統的な粘土瓦を用いた瓦屋根というのは、めっきり少なくなってしまった気がします。それでも全国では新築の屋根の約3割程度が粘土瓦なのだそうですが、一般的には平たいスレートの屋根が増えているように思われます。

 
粘土瓦自体も通常はプレス成型の工場生産品で、現代はその生産も機械化がされています。また鬼瓦も、一般住宅に見られるようなシンプルなものを始め、多くは機械生産されています。
しかし、細かな細工が施された鬼の顔を持つ伝統的な鬼瓦をつくるとなると、現代でも手造りを行う必要があり、「鬼師」や「鬼板師」と呼ばれる熟練の職人の登場となります。

 

 

鬼師は日本でわずか150人ほど

鬼師の鬼瓦づくりの仕事は、その屋根にふさわしい鬼瓦の原寸大の設計図を起こすこととともに、鬼師自らが材料となる土を調合し最適な硬さと粘りに練り上げることから始まるそうです。その土で瓦の土台をつくり、その上に土を盛りつけて鬼の顔かたちしつらえ、最後に磨きをかけて光沢と耐久性を引き出していきます。

 
細部の彫刻を加えたあと2週間以上乾燥させ、高温の窯で焼き締めることによって、ようやく鬼瓦が完成します。
鬼師になるためには特別な資格があるわけではありませんが、職人としての研鑽を積み、鬼師として名乗れるようになるまでには長く険しい道程を経る必要があるそうです。伝統的な鬼瓦の需要が減っていることもあるのでしょうが、現在、活躍されている鬼師は全国で150人ほどなのだそうです。

 

 

大江山平成の大鬼

日本の鬼のメッカ、大江山の地元である京都府福知山市大江町には、「日本の鬼の交流博物館」という鬼専門のミュージアムがあります。
この鬼の交流博物館の屋外には「大江山平成の大鬼」という、日本最大の鬼瓦が展示されています。その大きさは高さが5メートルで重さが10トンという、実に巨大なもの。

 
この大鬼は、「世界一の鬼瓦をつくろう」を合い言葉に、全国の鬼師さんたちの会である「日本鬼師の会」が中心となって製作されたもので、全体を130のパーツに分け、全国の8ブロックの産地でそれぞれの鬼師がそこの土を使って、その産地の方法で焼き上げ、できあがった各パーツをこの大江山に持ち寄り、組み上げて完成したというものです。
まさに現代の鬼師の技と心意気を集め、かたちにした鬼瓦だと言えるでしょう。

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