英雄ギルガメシュ~聖婚で誕生した叙事詩の主人公
シュメールの英雄ギルガメシュといえば、名前ぐらいは聞いたことがあるかも知れません。ギルガメシュはアッカド語の名称で、古代シュメール語ではビルガメス、のちにビルガメシュと言います。
ギルガメシュは、シュメールに多くの新興都市国家が生まれ、各都市に王朝があった初期王朝時代の紀元前2,600年頃にウルクの都市にいたとされる伝説の王。古代の文学作品として有名な「ギルガメシュ叙事詩」の物語の主人公ですが、決して空想の物語の中の王ではなく、現在では実際に存在していたと考えられています。
3分の2が神で3分の1が人間
古代シュメールの都市国家には、七大神と呼ばれる上位の「アヌンナキ」の神々を代表格として、それぞれに都市を守護する神が祀られ、都市国家の王はその守護神から王権を授けられていました。
しかしギルガメシュが特筆すべきなのは、彼の父がルガルバンダというウルク第一王朝の第3代の人間の王であるのに対し、母はニンスンという女神だったのです。この女神ニンスンは夢解きと知恵の神とされ、つまりルガルバンダ王は女神を妻としてわけです。
ですからギルガメシュは、人間と神のまさに聖婚によって生まれた人間と神のハーフだったのでした。もっとも古代シュメールの都市国家の王は、神から王権を授かった神の代理人または現人神とされていますから、ルガルバンダ王ものちに神の一員とされています。
こうして人間の王と女神との間に生まれたギルガメシュは、アヌンナキの筆頭である天空の神アン、その子供の風を司る神エンリル、アブズと呼ばれる深淵を司る水と知恵の神エンキのそれぞれから知恵を授かり、神話ではハーフというより3分の2が神で3分の1が人間という存在であったのだそうです。
また太陽神で正義の神ウトゥからは美しさを与えられ、七大神ではありませんが気象の神アダドからは雄々しさを授けられて、ギルガメシュの姿は「偉大な神々が造り上げた」ものだったそうです。SF的に言えば、アヌンナキの神々が協力して創造した(改造した?)生命体ということになるでしょうか。
また、母が夢解きと知恵の女神ニンスンであったことから、ギルガメシュはよく夢を見る英雄でした。そしてこの夢をニンスンや親友のエンキドゥ(知恵の神エンキに関係がある)の協力によって解くことで、未来を知ることができたという未来予知の力を持っていました。
人間と神々との聖婚
さて、人間と神が結婚したギルガメシュの両親ですが、これはルガルバンダ王に始まった話ではありません。
シュメールの王朝や他の民族の王の名前を記した「シュメール王名表」で、バド・ティビラの王またはルガルバンダ王と同じウルク第一王朝の第3代の王とされているドゥムジ王は、元々は羊飼いであり、なんと七大神の一員でありウルクの守護神である愛と戦いの女神イナンナ(イシュタル)と結婚して王となったとされています。
しかしドゥムジ自身がイナンナに、自分の父は水と知恵の神エンキで母はシュルトゥルという女神だと告げたという話もありますから、ドゥムジが人間の羊飼いであったのか神の子であったのかはよくわかりません。
時代が下ってシュメール最後のウル第三王朝(紀元前2,113年から紀元前2,006年)には、第4代シュシン王のときに王がドゥムジの役となり女神イナンナとの婚礼を行う聖婚儀式が始まります。これは、愛と戦いの女神イナンナがこの時代には豊穣の神としての側面が強調され、豊穣と多産を祈り、国土が豊かになり日々が平安であることを祈願する儀式でした。
このような、シンボライズされた聖婚儀式が行われるようになったということは、この時代には実際に人間と神々が結婚するということがなくなったのかも知れません。