キジムナーと火の不思議な関係~人間に火をもたらしたキジムナー
別の記事で、「キジムナー」が棲むガジュマルの木を燃やしてしまい、数年後に火のついた薪で目を潰されて復讐された男の話をご紹介しました。木の精霊で水辺が好きという、木と水に関係が深いはずの精霊キジムナーには、なぜか火にも関係が深いという伝承が伝わっています。
キジムナーの火
原因不明の火は「キジムナーの火」によるものとされ、家の屋根からキジムナーの火が出ると、誰かが死ぬ予兆とも言われたという話を別の記事で触れました。
「キジムナーの火」については、キジムナーが持っている火の玉で、むかしはキジムナーが夜道や畦道をよくキジムナーの火で照らして歩いており、村人もこれを見ることがあったということです。沖縄以外の本土では「狐火」といって、火の気のないところに提灯や松明の火のような怪しい火が一列になって現れ、これを狐のしわざとしていますが、沖縄ではキジムナーが持つ火だということです。
沖縄本島西部の本部町に伝わる伝承では「シューマ火」というものがあり、「シューマ」とはキジムナーの別名ですが、シューマ自体は見えないものの海上でシューマが点けた火が見えることがあり、ひとつ見えたものが2つ、3つ、4つと増え、またひとつの火に戻ったりしたそうです。
人間が知らない昔から火を使っていたキジムナー
キジムナーと火の関係については、人間に火をもたらしたのはじつはキジムナーだという伝承があります。
宮古島諸島ではキジムナーを「マズヌム」という名称で呼びますが、遥かむかしにこのマズヌムが人間と話し合ったり遊んだりしていた時代があったのだそうです。
その頃の人間は火を使うことを知りませんでした。人間のところにマズヌムが遊びに来ても、火がないのでお湯を沸かすことも、料理をすることもできません。食べ物はすべて生ものだったわけです。
しかし人間がマズヌムのところに行くと、温かいお茶が出され、焼いたり煮たりして柔らかくなった食べ物が出て来ました。人間はどうして温かいお茶や柔らかくなった食べ物が出て来るのか不思議でならなかったのです。これは何かマズヌムしか知らないやり方があるのだろうと、人間は考えていました。
バッタの複眼を通じて伝えられたキジムナーの火
ある日、まだマズヌムがお湯を沸かしたり料理をし始めたりしていない早い時間に、人間がマズヌムの棲む家に行くことがありました。
人間が「今日はどうして、温かいお茶や柔らかい食べ物がでないのか」とマズヌムに聞くと、「君たち人間が見ている間は、そのようなお茶や料理は出せない。でも、来てしまったのだから出さなければね」と言います。
その日、人間はバッタと一緒にマズヌムの家に来ていました。マズヌムは人間とバッタに「しばらく何も見えないように目を閉じて、その上から布でしばっていなさい」と言って火種を使い、火をおこして料理を始めます。
人間は正直に目を塞いでいましたが、バッタの目は複眼です。大きな2つの目を塞いでも、その下にも小さな目があり、それはマズヌムがすることを見ていました。
人間は帰るとバッタからマズヌムが火を使っていたことを教えてもらい、そのあと研究して自分たちも火が使えるようになったということです。
つまり人間は、キジムナーからバッタを通じて火を使うことを教わったというわけですね。