これが幽体離脱?自分を見下ろす自分がいることにビックリ!
あれはいつものように仕事をして、いつものように寝るだけの日の筈でした。
布団に入って目をつぶること数分?数時間?
暗い部屋、閉じられた視界では時間の進み具合が曖昧になります。
気味の悪い手が体に触れました
「!!」
パジャマを着ているはずなのに、突然誰かに胸を触れられました。
暖かくもなく、冷たくもない。不思議で気味の悪い手でした。
私はこの時悲鳴を上げるべきでした。もしくは布団を跳ね除けるべきでした。
気味の悪い手は、這うように私の胸を触ります。
「・・っは・・・!!」
今まで優しかった手は突然、胸を掻っ捌き始め、胸の奥に在る心臓にゆっくりと手を伸ばしてきました。
麻酔を打たれたみたいに、痛みはありませんでした。
はたして今目の前で私の心臓に手を伸ばしているのは何者なのでしょう?
狂った精神が動かしている自分の手?
心臓という生の象徴を刈り取ろうとしている死神の手?
薄くぼんやりとした視界では判断できませんでした。
足音が聞こえてきました
「・・・っは・・・・っは・・・・っは。」
そして早まる動悸、心臓の動きは徐々に早く、息も早くなる。
私は瞬時に理解しました。
誰かが私の心臓を掴んでいると。
目の前にいる何者かに自分の生き死にを握られていると、身体と本能は解ってしまったんです。
胸のあたりからものすごく不気味で不愉快な感触が這い上がってきました。
すると聴こえてくる誰かの足跡。
パタパタと、元気な子供のような音が俺の頭上から聴こえてきた。
一人暮らしの俺からすればそれが人ではないことは容易に想像がつく。
だったら誰?
この殺伐とした光景に不釣り合いな、元気な足音を立てる子供は何を思っているの?
そして意識はゆっくりと沈み、自分の激しい息使いだけが妙に鮮明に聞こえてきました。
これが死なのか、自分は死ぬのか、そう言った感情や思考はありませんでした。
死ぬと解ってしまった身体は抵抗の意思を見せず、殺されると解っている本能は抗う無意味さを知っているから。
生きるという意思はなくなって、息をする本能だけは律儀に私に生きている実感を与えてくれて、考える頭は自分の死ぬ姿だけ。
気がついたら自分を見下ろしていました
息をしてかろうじて見える視界の先に居たのは、私でした。
「・・・・。」
その姿を見たとき、消えそうな意識はゆっくりと浮上していき、暗い部屋が視界に入りました。
後に残ったのはうまく回らない頭と、早い動機だけ。
――ああ。
そこで私は理解しました。
私は死にかけてたんだなと。
肉体から離れた私と言う自我が、肉体の無い私を見ていたんだと。
俗にいう幽体離脱というやつを体験したんだと遅まきながら理解しました。
「・・・。」
だったら、私の心臓を掴んだのは正真正銘の死神?